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 ああ、寝そう……これ、寝てもいいんじゃないかな? なんて非常に身勝手なことを考えていると、ドアが開く音がしてしゃきっとせざるを得ない。いかんいかん、これからわざわざ酒盛りしてくれるってのに、帰ってくるまでに寝てるなんてダメだ! 眠気を追い出そうと眼をこすっていると、地味に顔の傷に当たっていたい。あ、血でた。
 目を開けると上半身裸の承太郎が立っていて、どうやら開いたドアは風呂場のものだったようだ。……うーん、肉体美。いい加減、わたしの脳細胞も承太郎のイケメン具合と高校生だというのに半端ない色気にも慣れたようだ。これが眼福ってヤツですね。
 ちらりと見えた背中にはエグイ色をした痣だった。さきほどのお礼もかねてわたしは承太郎に提案をする。


「空条さんも背中、湿布貼ります?」

「…………じゃあ、頼む」


 背中を向けて座ってくれた承太郎を思わず凝視。肌しっろーい、さすがハーフ。しかも背中、大きいなあ……お父さんの背中って小さかったのかも。そう思わせる百九十五センチメートル。痣はわたしの腹や腕、喉にあるものなんかよりもよっぽど酷い。ダン、加減しなかったんだな。いや、寧ろ、わたしには加減してたと言うことだろうか? もしかすると殺さずに痛めつけて、承太郎の心を折る目的だったのかな? いやそれ逆効果では……? この男、あきらめるタイプじゃなくて、燃え上がるタイプだぞ……。
 触ったら痛いだろうから、触れないように注意して湿布を貼った。本当はちょっと乱暴に貼って反応を見てみたいという気持ちがないわけでないのだが、先ほどものすごく怒られているのが心に残っているのでやめておこう。あれは、心臓に悪い。


「大丈夫ですか?」

「………ああ」


 オッケーオッケー。わたしは華麗に任務を遂行した。満足してうなずいていると、がちゃりと後ろでドアが開いた。振り返るとポルナレフたちが大荷物を持って帰ってきていた。そんなに何買ったんだろう? ポルナレフはわたしと承太郎を見て、やや下世話に笑った。


「あー、もしかしておれたちお邪魔しちまったかぁ?」


 一瞬、意味がわからなかったがわたしに背中を見せている承太郎は、当然上半身裸である。普通に考えたら健全な若い男女が同じ部屋にお泊りしているだなんていうことは、まあ、そういう意味が含まれるというわけで。からかっているんだなあ、とわかったところでわたしもそれに乗っかってやった。こういう反応をされるとは考えてなさそうだなあ、と思っただけであって、他意も下心もなかった。


「そうだよ、ねえ空条さん? ……や、冗談じゃないですか! 空条さん怒らないでください! その顔怖いです! わたしが全面的に悪いです! すみません!」


 ポルナレフの冗談にノリで乗っかって背中に抱きついただけなのに、振り向いてすごい顔をされた。びっくりした。心臓止まるかと思った! たしかに傷だらけの背中に抱きついたのは申し訳なかったと思うし、わたしも軽率なことしたとは思うけれども……わたしだって傷付くんですぜ……。
 直ぐ様離れて落ち込んだわたしに、ポルナレフがいい笑顔でドンマイ、と言ったので、ムカついたから部屋に備え付けのティッシュを投げてやった。顔面にヒット! ドンマイ、とわたしも笑ってやった。


「はっはっはっ、ナマエちゃんが元気そうでよかったよ」

「あ、す、すみません」

「いい、いい。それじゃあ早速、飲もうか?」


 ジョセフが買ってきた酒の袋を持ち上げながら、ウインクをかましてきた。あまりウインクが似合ったため、わたしの脳内にはお花畑が出来上がり、花が咲き乱れていた。格好よすぎだよ、ジョセフ。ジョセフ相手なら不倫したくなる気持ち、よくわかる。お茶目でやるときはやる男で社会的にも成功してるって、どこの少女マンガの王子様ですか……。まあ、ジョセフの方は本当になしなんだけどね。大学生に手ェ出すとか本気か?
 変な方向に思考をやっていたわたしに、一番後ろから入ってきた花京院が何かを渡してくれた。ん? と首を傾げると、花京院は朗らかに笑った。


「承太郎のズボンを繕うのに必要なもの、買ってきました」

「わ! え、ごめんね。ありがとう!」


 袋の中を見てみると、布や針、糸などがほぼ完璧に揃っている。花京院にもう一度お礼を行ってから、自分の荷物のところに置いておく。承太郎はその間に服を着て酒盛りが出来るように余分なものを退けていた。テイクアウトしてきた料理やビール、酒瓶が机の上に並ぶ。苦手なアジア料理の割りに、いい匂いが鼻を掠めた。しかしよく見ていると酒瓶が出てくる出てくる……。え、これ、呑みきれるの?


「え、ちょ……お酒多くないですか」

「ん? そうか? 五人もいるし大丈夫じゃないかのう」

「……え、あ、そうですか?」


 ならまあ……いいのだけれど、酒とはここでお別れせねばならないはず。大丈夫なのか? 呑みきらなければ勿体無い。それぞれに缶のビールが渡る。ぷしゅ、といい音をさせ、プルタブを開いた。ジョセフが回りを見渡してからにっかりと笑って、音頭をとった。


「乾杯!」

mae ato

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