酒盛りが始まって三十分、ポルナレフが提案したのは一発芸だった。よっぽど騒ぎたい質なのだろう。そういえばフランス人はパーティが大好きだって話を聞いたことがあるような気がする。まあ、家にいるときは借りてきた猫状態で落ち着きないわりに大人しいらしいけど。まさにその通りなんだろうなあ、とぼんやり思った。わたしは一応手品とかをかじっているので一発芸くらい問題ないのだけど、花京院が物凄く困っていた。ううん、こういうの、慣れてないんだろうな。日本人ってそんなものだよ。というわけで、三本目のビール片手に助け舟を出すことにした。
「やりたいなら、発案したポルナレフからやってね」
「ナマエお前、なんつーことを! 一番最初にやってウケるわけないだろ!」
「じゃあ尚更、ポルナレフが最初にやれって話になると思うんだけど」
ね、と言えばポルナレフは言葉に詰まり、畜生! と机に突っ伏した。この子バカなんじゃないか。世の中には言い出しっぺの法則と言うものがあることを知らないとは。ビールを飲みながら、じい、と見つめているとどうしても他人の一発芸が見たいのか、手を上にあげ宣言した。自分の身を犠牲にしてまで他の人の一発芸見たいとかすごい根性だな、ポルナレフ。日本人にはないよ、そういうの。
「じゃあ承太郎の真似するぜ! ……“やれやれだぜ”」
「おい、似てないぞ」
「似てないよ」
「似てねーな」
全員からブーイングを受けてしょぼくれるポルナレフを見ていると、思わず笑いが漏れ出してくる。必死に我慢しようとするも、キッとポルナレフに睨まれてしまえば噴き出して笑わずにいられなくなってしまう。やばい、笑いすぎて涙出てきた。お腹痛い。ただでさえ怪我してるのに笑うと怪我に響く。痛い。ひい、ひい。
「そんなに笑うってんなら、ナマエも真似してみろっつーの!」
「ポルナレフ、大人げないぞ」
「……“やれやれだぜ、てめー誰に向かって口を利いてやがんだ?”」
「な!?」
わたしを見ていたポルナレフと承太郎が目を大きく見開いていた。ジョセフと花京院は承太郎の方を見ていたが、承太郎の視線がこっちを向いているのに気付いて、わたしを見た。おーおー、驚いちゃってー。そんなリアクションしてくれちゃうなら、お姉さん、もっとサービスしちゃうぞー? ニヤニヤと口を緩ませて、もう一言。
「“喧嘩を売る相手は選んだ方がいいんじゃねーか?”」
「……」
「“ポルナレフはちょっと頭が弱いんですよ、まあ、知ってましたけど”」
「ぼく!?」
「“ポルナレフはまあ……そういうところもあるからのう”」
「わしまで!」
「“って全部おれの悪口じゃねーか! ふざけんなよお前ら!”……って感じかな、ポルナレフ?」
「な、なんでナマエそんなことできんだよ! くっそー…! おれが恥かいただけじゃねぇか!」
まあそういうこともあるよ、仕方ない仕方ない、とポルナレフにはぬるい目線を送っておいた。実際何故できるのかと聞かれたら、ヲタクの趣味が高じて、ということなのだが、まさかそんなことをここで言いたいわけもないので内緒にしておくことにする。しかしまあ、喉がやられている今、ちょっとクオリティ低かったかなあ、と思わなくもない。でもあれかな、女から男の声が出ただけでも十分驚いてくれるからいっか。なにせ一発芸だしね。
落ち込んでるポルナレフの肩をジョセフが叩いてまあまあ、と慰めた。ジョセフったら優しい。それから、じゃあ、とコーラの瓶を取り出した。え、なんでコーラ用意してるの。まさか最初からやるつもりだったの?
「わしもやってみようかの。コーラの瓶を、蓋に触らず開けるから、よーく見ておくんじゃよ」
そう言われると皆がコーラの瓶に集中してしまう。わたしもまさか二部のあれが見れるとは思わず、どきどきしてきた。ニィ、とジョセフが口の端を上げた。すると中のコーラが外に飛びだし、勢いよく栓が吹き飛んだ。すごい、すごいけど……これ、片付けるんだよね? 床、びっしょびしょなんだけど。まあいっか! とりあえず楽しんでおこう!
「すっげーっ!」
「じじいすげぇじゃねーか」
「すごいですね」
「ジョースターさんすごい…です…! 格好いい!」
「はは! そうじゃろ?」
皆でジョースターを誉めていると、花京院がぼくは何も出来ないなあ、と苦笑いをしていた。気にしなくて良いと言えば、どうやら少し安心したようだった。ていうか普通、一発芸用意してる人とかいないからね。大丈夫だからね。そして何故か皆の目線は承太郎に向けられていた。おおっとー、花京院はよくても承太郎は逃がしてもらえない法則ー! 可哀想だけどわたしも見ちゃうー!
「承太郎は何かできねぇのか?」
「あ? ……そうだな」
承太郎は煙草を五本くわえると、その全てに火をつけ、くるりと口の中に閉まってしまった。何事かと思ったわたしたちであったが、承太郎はそれでは終わらず、ジョセフからコーラを受け取るとそれを飲み干し、更に火のついたままの煙草を口から出して見せた。なんというか、その。すごいとかなんとか言う前に驚きすぎてまさに目が点……びっくり人間の様であった。
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