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「よし、じゃあ飲み比べしようぜ!」


 酒盛りが始まって一時間経った頃、先ほどの一発芸がよっぽど悔しかったのか、日本人の自分より年下の女の子相手に飲み比べを挑んでくる。一体それはどうなんだろう、と、周りから非難の目線を浴びていたが、わたしはそれよりも気になっている存在が隣にいた。紅潮した頬でふらふらと前後する花京院である。完全に出来上がってやがります。きっと酒に慣れてないんだろう。そうだよなあ、花京院って友達いなかったわけだし、そもそも真面目なんだし。
 飲み比べを挑んでくるポルナレフのことはとりあえず放って置いて、花京院の肩を軽く叩く。振り向いた花京院は目が眠そうで、ふにゃふにゃした笑顔だった。か、可愛い……! いっそ凶悪なほどに可愛い! うるさいほど叫びたい気持ちを必死に抑えて笑顔を作った。


「花京院くん、眠いならもうベッドで寝ちゃった方がいいよ」

「え、あ……その……でも」

「いいからいいから。皆同じ部屋にいるから少しうるさいかもだけど、安心して寝てね」


 遠慮する花京院を立たせてベッドまで歩くと、学ランを受け取り横にならせ、布団をかけてやる。壁にかかっていたハンガーを取って、学ランと一緒に元の場所に戻す。制服に皺とかできたらすごい気にしそう。
 そしてわたしは座っていた席に戻ろうとすると、二人からは意外そうな、ジョセフからは生暖かい目線を向けられていた。ものすごく気まずい。なんだ、これは!


「え……な、なんですか」

「ナマエってなんか母ちゃんみてーなとこあるよな」

「将来ナマエちゃんはきっといいお嫁さんになるな」

「あはは、ありがとうございます。でも、相手がいませんから」


 ジョセフの言葉を軽く笑って否定する。自分で言いながらなかなか心を抉る言葉だ。ざっくりぐっさり。その暗鬱な気持ちを払拭するため、大きな酒瓶とコップを二つ持ち上げ、ポルナレフににっこりと笑ってやる。


「さてはて、飲み比べしようか?」

「お、やってやろうじゃねーか!」


 わたしたちの飲み比べを肴に承太郎とジョセフはちびちびと酒を飲み、ポルナレフとわたしは飲み比べを始めた。ルールは簡単、同じアルコール度数36度のウイスキーを飲み、どっちが先に潰れるか。 この勝負に心配要素があるとすれば、日本人よりも外国人の方が基本的に酒に強いってことくらいか。やるからには勝ちたいのだが、勝てなかったとしても気にしないことにしよう。相手は身体も大きいんだし、人種だって違うんだし。うん。
 ごっごっごっ、とお互い結構なハイペースで飲み干していく。喉が焼けるような感覚がするのは、たぶんケガをしているからだろう。少しの時間が経って、身体の中が温まってくるのにももう少しかかりそうだなあ、と思っていると、いきなりがしっと肩をつかまれた。


「シェリーはなぁ…、本当に可愛くておれに似てねーんだけどよぉ……!」


 ポルナレフがおいおいと泣き始めた。うわ……こいつ泣き上戸だ。めんどくさいと思いながらも話を聞いてやっていると、肩をつかんだまま延々とシェリーの話をしているポルナレフをジョセフが引き剥がしてくれた。そのまま泣いているポルナレフに肩を貸して、ジョセフはにっかりと笑った。


「今日はここまでにしようか。ポルナレフも潰れてしまったようだし、わしもそろそろ酔ってきたしな」

「じゃあそうしましょうか。ドア、開けますね」


 ジョセフよりも先にドアの前に立ち、自分たちの部屋のドアを開けたついでにふたつ隣のジョセフとポルナレフの部屋のドアも開きについていく。ジョセフからカードキーを受け取るとドアを開けてふたりが入るのを待つ。入る間際に声をかける。


「今日は楽しかったです。ありがとうございました、おやすみなさい」

「ははは、わしも楽しかったよ。帰ったらまたやろう」


 はい、と返事をして部屋に戻ると、ゴミを片している承太郎の姿。やだ、なんか可愛い。ついでにホリィさんの教育が行き届いてるんだなあ、と感心した。こういうところを見るとたまに承太郎が不良ということを忘れそうである。
 わたしも一緒に片付けをしてゴミをまとめる。テーブルの上には中身が綺麗に残った酒瓶が四つも余っていた。そしてそれを見つめるわたしと承太郎。自然と目線がお互いに向き合ったので、へらりと笑って話しかけた。


「空条さんがもし大丈夫なら、飲み直しませんか?」

「……ああ、そうだな。勿体ねぇ」


 だから多いって言ったのになあ、花京院は仕方ないとしても結局ポルナレフは潰れるし、困ったものだ。でもジョセフは口とは裏腹にまだまだ飲めそうだったから、案外、ポルナレフが弱いだけだったりして。そんなことを考えながら瓶の蓋を開け、ふたりで乾杯し直した。
mae ato

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