あーとかうーとか呻いたり、叩いて承太郎を起こそうとしたせいか、むっくりと花京院が起き上がった。よかったとため息をつく間もなく、わたしとその上に乗っている承太郎を見て、顔を真っ赤にさせて固まってしまった。あ、うぶ発動。この子間違いなく勘違いしてる。おーい、と見えるように手を振って花京院に合図を送る。勿論そのときにはっきりと声を出すことも忘れずに。
「かきょーいーんくーん、へーるぷ」
「! ……え、と、ナマエ、さん?」
「空条さんが酔って寝ちゃって倒れてきたのー。助けてー」
そう言えば慌てて駆け寄ってきた花京院が承太郎を退かしてくれて、わたしはどうにか重たい巨体の下から這い出ることが出来た。花京院と一緒に承太郎をベッドに運び、投げるように寝かしておく。学ランじゃなくてよかった。脱がすの大変そうだもの。
ふう、と一息つく前に余っていた酒瓶をすべて開けて一気にらっぱ飲み。ごっごっごっ、と少々はしたない音がした。飲み干して息をつく。ご馳走様でした。その様を見ていた花京院が驚いた顔でわたしを見ている。……な、なんか、恥ずかしい。平静を装って笑顔で花京院を見た。
「ん?」
「ナマエさんって、……お酒すごく強いんですね」
「うーん……そうなの、かな。酔ったことあるのは一回だけ。二日酔いしたこともないし、アルコールを分解しやすい身体なのかも」
「……すごいですね」
花京院があんまり素直に言ってくれるものだから、ちょっと照れ臭くなる。ポルナレフだったら間違いなくわたしをからかうようにして言うに決まっているだろう。 それか引く。うわ、ねえわ、なんて声が簡単に想像できた。
酒瓶やツマミなど、全てを片付けて、それから自分の荷物をがさごそと漁って目当てのものを探す。お、あった。案外綺麗な字で書かれた紙を持ち、振り返ってぼうっとしていた花京院に問う。
「花京院くん、国際電話のかけ方ってわかる?」
「え? ……あ、デーボですか?」
「うん、そう。そろそろ電話しないと心配かけるしね」
デーボの電話番号が書いてある紙を渡すと、備え付けの電話で花京院が掛け始めてくれる。英語で何やら会話をしていて、わたしにはよくわからないが、多分その国に繋いでくれるオペレーターか誰かと話しているのだろう。女の人の声が聞こえる気がするし。五分ほどして、花京院がわたしに受話器を渡してくれた。わあ、格好いいなあ。頼りになる。
「これで繋がるはずです。終わったら普通に切ってください」
「ありがとう」
「いえ。あ、じゃあぼく、お風呂入ってきちゃいますね。お酒ももう抜けてるみたいですし」
「うん、いってらっしゃい」
着替えを持って風呂場に消えていった花京院に手を振った。気を使わせてしまったのかもしれないが、わたしとしても電話を他の人に聞かれるというのはあまり好ましいものではない。というか恥ずかしい。呼び出し音が流れる中、ちらりと承太郎に目線を向ける。よし、しっかり寝てる。呼び出し音がぷっつりと切れて、電話の向こうから少しだけ懐かしい声が聞こえてきた。
『おれだ』
「……あ、デーボ、さん?」
『……やっぱりナマエか。どうだ調子は』
「うん、どうにか」
わたしは今日までのことを簡単に説明して、そして無茶をするなと少し怒られて、それからデーボの様子を聞いた。今は家で静養中だとのこと。見えなくなった目には同色の義眼を入れて、今まで稼いだ金で何をするわけでもなく、暇だと嘆かれた。笑いながら話を聞いていると、不意にデーボの声のトーンが変わった。
『どうした』
どうして、聡い人ばかりなんだろう。うまく息が飲み込めなくて、心臓がきゅと締め付けられた。
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