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 パキスタンのカラチと言う場所から恐ろしく酔う船に乗り、アラブ首長国連邦のアブダビという場所までやってきた。この時点でわたしのライフはほぼゼロであったが、二日酔いで死にかけていたポルナレフもまたライフがほぼゼロだった。しかしポルナレフは二日酔いというハンデがあったにもかかわらず、酔いへの耐性は圧倒的にわたしの方がなかったため、ポルナレフは車に乗る頃には全快していたのに、わたしはと言えば車に揺られながら更に死にかけている。うっぷ。
 キキ、と車が止まる。どうやら目的地に着いたらしく、わたしは一番に車から飛び降りた。そして地面にうずくまる。動けない。は、吐きそう……マジで……! 暖かい風を浴びながらせめて今涼しければ、と思わずにはいられない。


「おい、大丈夫かよナマエ」

「船酔いが……まだ残ってる……」

「ダメそうな顔色だな。歩けそうか?」

「……ふー……なんとか、大丈夫そう……」


 ポルナレフに気遣われながら、皆のあとを着いていく。ジョセフが地元のおじさんと話し、しばらく待っていると五頭のラクダを引き連れてもう一人のおじさんがやって来た。わあ……ラクダって大きい……。想像していたサイズではない。動物園で見たラクダは、たぶんアレですね、遠かったからサイズわからなかったんだな。


「バフ〜〜ッ ブァフゥ〜〜」

「くさ〜〜! ど、どうやって乗るんだ? 高さが3メートルもあるぞ」


 ポルナレフがシュ〜ッとラクダに向かって消臭スプレーを撒いている。いやきみそれはやめなさいよ。しょうがないでしょうが。
 わたしがポルナレフに冷たい視線を向けている間に、ジョセフの一人遊びが始まっていた。全くもって言うことを聞かないラクダと奮闘するジョセフは噛み合わないにも程があるというか、多分舐められてんるだろうなあれ。ラクダの乗り方なんかわからないが、わたしはわたしでとりあえず接してみようと近寄った。


「ブァフゥ〜〜」

「よーしよしよし、うお、目も大きいし、睫毛もばっさばさだね、きみ」


 可愛い可愛いとラクダの顔を触っていると、ラクダが自分でしゃがんでくれた。おお、ラッキー、と上に乗るとラクダは前足から立ち上がり、身体が後ろに傾いたため、バランスを取る。今度は後ろ足、すこしだけ前に傾き、やっと水平になった。


「うっわあ、高い!」


 今まで自分の見ていた景色とは全く違う景色が広がっていて、異常なまでにテンションが上がってしまう。これ肩車された子どもと大して変わらない。少し恥ずかしくなりながら下を見ると、ジョセフたちがぽかん、としていた。何をしてるんだろう。視線の先を追って振り返ってみても特に何があるわけではない。


「どうかしました?」

「ナマエちゃん、ラクダに乗ったことがあったのか?」

「いえ、ありませんが……?」


 というかラクダに乗ったことのある人なんて滅多にいないと思うのだが……。そう思うわたしにジョセフがすごく悔しそうな顔をしていたのは、見なかったことにしようと思う。
 続々と皆がラクダに乗り、目的地である村を目指すことにした。わたしはラクダに乗りながら、車より酔わないことに気付き内心大喜びだった。助かる……。これで色々考えるのも苦じゃないというものだ。えーと今はたしかザ・サンくらいだろうと思うから、どうにかラクダが倒れる前にやつを倒してさっさとヤプリーンの村に着きたい。だって暑いのは嫌なのだ。ただでさえ暑いのにこれ以上暑くなるなんて考えたくもない話である。
 わたしは暑さから口数も減っていたというのに、ポルナレフはくるりとこちらを向き、至極真面目な顔でくだらないことを言った。


「暇だな、ナマエ、しりとりしようぜ」

「えっ、しりとり? ……いいけど」

「じゃあおれからな! りんご!」

「ゴール」

「ルビー!」

「それって、イ? ビ?」

「ビ、だな!」

「ビヤホール」

「またルかよ! ル、ル、ル、……ルッコラ!」

「ライフル」

「おい! ナマエいい加減に!」

「あと十、九、八……」

「あー! くそ! 待てよ! ル、……ル〜〜、ル、あッ留守番電話!」

「ワッフル」

「ああああ……!! お前続ける気ねぇだろ!」

「勝つ気があるよ」

「畜生!」


 とりあえず能天気なポルナレフに“る責め”をお見舞いしてやると、しりとり程度だというのに半泣きになってしまった。何故しりとりで半泣きになるんだ。意味がわからないよポルナレフ。
mae ato

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