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 結局しりとりは余裕でポルナレフを打ち負かし、落ち込んだポルナレフを気にすることなく目的地に向かって進む。それにしても暑い。日本のじっとりとした暑さではないのが救いだと言いたいところだが、慣れていないカラカラの暑さには正直耐え難い何かがある。本当に、ただひたすらに暑い……いや、熱いのである。ため息を吐くのさえ嫌になるような暑さの中、花京院が不意に振り向いた。


「おかしい、やはりどうも誰かに見られている気がしてならない……」


 それにつられ、ポルナレフと承太郎のふたりが振り返る。わたしも振り返るものの、見付けられるどころか視線さえ感じない有り様。どうやらわたしとポルナレフのレベルは大差ないらしい。悲しいような、別にそんな視線を感じるような能力はいらないような……。承太郎は後ろを見つめたままだったが、ポルナレフはため息をついて花京院に向き直す。


「花京院、少し神経質すぎやしないか? ヤシの葉で足跡は消してるし、数十キロ先まで見わたせるんだぜ。誰かいりゃあわかる……」

「いや……実はおれもさっきからその気配を感じてしょうがない………」

「承太郎、しらべてみてくれ」


 ポルナレフの言葉に、承太郎は難色を示した。花京院だけでなく承太郎までもが何かを感じるようであれば、やはりその感覚を無視することはできない。ジョセフに言われた承太郎がスタープラチナを使い双眼鏡で振り返る。ゆっくりと辺りを見渡すものの、何かを見つけた様子はない。スタープラチナでなければ見えないほど遠くにいるのなら、まずそちらからも見えないということになるので、まあ、ほとんどありえないことなのだろう。例外はいくつか、知っているけれど。


「どこかに不審なものでも………?」

「いや…見えない、何もない…しかし…なにか妙だ。なにか……が」


 どこかにザ・サンの使い手アラビア・ファッツがいるのは間違いないが、現時点では見付けるのは厳しいようだ。でもぶっちゃけ何か投げれば当たる気がしないでもないが、ヴィトにそんな腕力はないし、スタープラチナも全方向に石を投げられるほど器用じゃないだろう。そもそもそんなに大量の石があるとは思えない。
 さて、どうするかな、と花京院を見て、ああそういえばハイエロファンとグリーンならエメラルドスプラッシュで全方向も可能なんじゃないだろうかと思い立った。それを口に出そうとして、わたしが今まで一度もエメラルドスプラッシュを見てないことに気が付いた。あ、危ない……言ったら変に思われていたかもしれない。えー……と、あれだ。


「えーと、誰かこの中に遠距離系の攻撃ができる方は?」

「ぼくができますけど、一体……?」

「じゃあ全方向にそれをできる? そしたら敵がいなくてもいても、とりあえずは安心できると思うんだけど」

「ああ、なるほどな。やってみてくれるか、花京院」

「はい、わかりました」


 エメラルドスプラッシュ! と言いながらエメラルドスプラッシュを発射する花京院を見て、なんだか切ない気持ちにさせられる。技名って、叫ばなきゃいけないのか? わたしもついついヴィトの名前呼びがちだけど、正直これもわりと恥ずかしい。よく考えたら承太郎もスタープラチナの名前呼んでるし、ポルナレフだってアヴドゥルさんだって呼んでるんだから、恥ずかしいことじゃないのかも……? アヴドゥルさんが言ってるんだからいいんじゃないか……?
 そんなわたしの迷い渦巻く胸中とは別に、ゴシャアアンと良い音が鳴って、更にドギャス! と人の叫び声。ドギャスってあなた……。皆で顔を見合わせると空が真っ暗になって突然寒くなった。


「空間に、穴がッ!?」


 ラクダから降りてそこに行くと、裏からは見えるマジックミラーとエアコンを取り付けた簡素な車から飛び出て転げている男の姿があった。なかなかに間抜けな姿である。


「えっ……ということは……こいつもうやっつけちまったってことかァ〜? もう終り? こいつの名前もスタンドも知らないのに」

「多分、スタンドの正体はさっきまで出てた“太陽”ってとこだろう。時計見りゃわかる、今は午後八時過ぎだってのに太陽が出てたんだからな」

「じゃあもしナマエが花京院に無茶ぶりしなかったら、おれたち……焼き殺されてたってことかよ!」


 ひえ〜ッとオーバーリアクションするポルナレフに無茶ぶりは余計だと後ろから蹴りを入れておく。花京院からは無茶ぶりなんかじゃないですよ、ありがとうございました、と微笑まれて、人間の出来の違いというものを思い知らされた。さてと、ヤプリーンの村を目指すラクダの旅を再開するとしましょうか。
mae ato

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