86
 一時間ほど進んだ地点には水辺があり、そこでテントを張ることにした。五人が入れる大きなテントに雑魚寝をするのである。さすがに一日で砂漠は抜けられないのだろう。テントを張るという経験は勿論なかったので、花京院と一緒に食事係だ。飯ごうとかすごい懐かしい。小学生の林間学校以来……いや、中学校、あ、高校でもやったわ。案外やってるじゃないか自分……。こうして記憶は衰えていくのか。
 少しの悲しみを味わいながらもご飯が炊けた匂いで、気分は簡単に上昇した。やっぱり食事って大事だよね。つい、楽しくなっちゃう。


「いやあ、良い匂いだね!」

「ご飯にレトルトのカレーかけるだけなんですけど、こういうのっていいですよね」


 ご飯をよそいカレーをかけて、はい、いただきます。火を囲みながら大人数で食事をするなんて経験は、林間学校でもなかった。別に強いて美味しいわけでもないはずのカレーも、こうして食べるととても美味しい。食べきってから水辺で歯磨きをする。カレー臭いテントとか、嫌だものね。皆清潔好きなのか、並んで歯磨き。これって、なんか笑える。それからテントの前に立って、わたしはまず一言申し上げた。


「わたし、端っこがいいです」

「あっずりぃ! おれも端がいい!」

「……馬鹿じゃねーのか」

「ぼくはどこでも。あ、ポルナレフの隣は寝相悪そうだから嫌かな」

「花京院てめー! 言いやがるな!」

「おいおい喧嘩してどうする。じゃあこうしよう、左からナマエちゃん、花京院、承太郎、わし、ポルナレフ。これでいいか?」


 皆が頷いてテントに入ってみると、狭いことこの上ない。暑苦しいけど、砂漠の夜は冷えるからこれでなんとか暖が取れるだろう。おお、花京院あったかいです。ぴたりと花京院の方に寄ったわたしは寝袋を被って早々に眠りにつくことができた。









 朝、起きると花京院が絶妙に離れていてショックを受けた。けどそんなことでめげているわけにもいかないので、テントの外に這い出てぼーっとしながら歯磨き。顔も洗ってお湯を沸かしながら、ふと時計を見るとまだ六時だった。んー、ちょっと、早すぎたか? お湯を沸かし終え、食事用の荷物を漁る。たしかここにインスタントコーヒーが……お、あった。カップにインスタントコーヒーとお湯を入れていると、ジョセフがのっそりとテントから出てきた。あ、髪の毛跳ねてる。かわいい。


「おはようございます」

「おはよう。ナマエちゃん起きるの早いのう、何時に起きたんじゃ?」

「三十分か四十五分くらい前ですかね、あ、コーヒー飲みますか?」


 ありがとう、と言ってジョセフはカップを受け取った。しばらくくだらないことをしていると、ポルナレフ、承太郎、花京院と起きてきて、携帯食料で簡単に朝食を済ませてからまたラクダで村を目指した。
 正午。想像していたよりも早くヤプリーンの村につき、取っていた宿屋で食事、そのあとわたしとポルナレフはだらだらと村を回ってみたものの、特に何があるわけではなく、しょうがないので石蹴りをして遊んだ。


「おれら……何やってんだろうな」

「……うん。ね」


 蹴った石が人様の車に当たり、走って逃げてきたときの一言。この歳になって本当に何やってるんだろう。切なすぎて涙が出るかと思った。宿に戻るとセスナを頼みに言ったというジョセフが戻ってきていて、無事購入できたらしい。それから夕飯、風呂を済まし、部屋へと戻っていった。今日の部屋割りは花京院とポルナレフと一緒だ。二人が寝静まってから、ヴィトを出して小声で話しかける。


「さて、ヴィト」

「是」

「このまま寝るけど、もし襲われたら起こしてね。あともしデス・サーティーンの世界に入ったときは、後ろからやつの動きを止めて。あ、話はできるようにお願い」

「是」


 おやすみ、とヴィトの頭を撫でてわたしは布団を頭まで被り、羊を数えることもなくすぐに眠りについた。
mae ato

modoru top