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 デス・サーティーンの攻撃、である夢の世界から目覚めると、かなり寝起きの悪いわたしでも飛び起きて汗だくになっていたという事件が発生した。や、多分寝てないに等しいから、意識が覚醒していたんだろうけど。とりあえずさっき起きた出来事は、しっかりすべて覚えている。汗を袖でぬぐい、フワリと浮かんでいるヴィトを抱き締めた。


「ヴィトありがとね。さっきのは本当に死ぬところだった……!」

「ナマエ、無事、ヴィト、安心」

「本当にありがとうね」


 大好き大好き、とほっぺたをぐりぐりと擦り寄せていたら、隣のベッドから勢いよく花京院が飛び上がった。彼の顔は蒼白で、泣きそうな顔をしている。声をかけようとしたわたしの姿を確認すると勢いよく飛び付いてきた。わたしは目をぱちくりとさせながら、うろたえるだけだった。


「か、花京院くん!? どうかした!? だ、大丈夫? デスサーティーンになんかされちゃった?」


 花京院はぶんぶんと全身全霊で首を左右に振り、わたしの言葉を否定した。五分ほど経って、どうしたのか分からずにうろたえているだけのわたしから、どうやら落ち着いたらしい花京院は勢いよく離れた。うん、そうだね、そういや花京院ってうぶだったね。冷静になったってことだろう。


「えーと花京院くん?」

「す、すみません! いきなり抱きついたりして!」

「いや、別にそれはいいんだけど、どうしたの?」

「あの、さっき、あんなことがあったので、もしかしてナマエさんに何かあったのではないかと、」


 夢見は死ぬほど悪かったよね。わたしは知っていたからいいけど、花京院は知らなかったわけだしね。申し訳ないけどパニックになるくらいくらい心配してくれたのだとわかると、心から嬉しいという気持ちが湧いてきて笑みが浮かんでしまう。


「ありがとう、花京院くん」

「い、いえ、」

「あ! 花京院くん、手、怪我してたでしょ?」

「あ、そういえば……」


 思ったより深かったのか、血がぽたぽたと床に垂れている。見れば見るだけ痛そうな傷だ。自分のかばんを漁り、消毒液とガーゼ、包帯を取り出して、部屋の真ん中に突っ立ったままの花京院に駆け寄って、とりあえずベッドに座らせた。


「染みるとは思うけど我慢してね」

「は、はい」


 部屋に備えつきのティッシュを傷口の下に当て、容赦なく外国製の消毒液をぶっかける。びくりと花京院が震えたから、やはり染みるのだろう。出来ることならわたしはこの消毒液のお世話にはなりたくないものだ。赤く染まったティッシュをゴミ箱に投げ捨て、清潔なガーゼを二重に当てて、包帯でぐるりと巻く。


「キツくない? 大丈夫?」

「大丈夫です……、ありがとうございました」

「いえいえ」


 手当てが終わると花京院は礼儀正しく頭を下げてきた。そこまでしなくてもいいんだよ、っていうか、こんなに騒いでるのに起きないポルナレフっていったい……?
mae ato

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