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 よく生きていられたもんだ、と思うくらいの大クラッシュ後、わたしはマニッシュ・ボーイを抱えて脱出した。マニッシュ・ボーイには傷ひとつないようだが、わたしは先日ダンに痛め付けられた箇所がまた痛み始めている。打ち所が悪かったのかな……痛いぞ。とりあえずカゴの中にマニッシュ・ボーイを置いて岩に座る。はあ、とため息をついてから、各自座ったり立ったりと落ち着く体勢で先ほどのことについて話し出した。


「さてさっきのことだが……ポルナレフが寝てる間に暴れだしたのだが、これについてどう思う? ポルナレフは何か覚えていることはあるか」

「わからねぇ…恐ろしい夢をみたような気もするし、目が醒めたとき死ぬほど疲れてるしでよぉ……」

「デスサーティーンのスタンド攻撃、でしょうか」


 花京院が口に手を当て、やや考え込みながらもそう呟いた。ポルナレフはそれはないだろ、とあからさまに顔をしかめたのだが、もしそうじゃなければポルナレフ自身が全員から非難を浴びても仕方ないことをしているのに否定してしまっていいのだろうか。


「しかし……花京院やナマエちゃんのときはしっかり覚えていたじゃろう? 一体何故……」

「本来ならば忘れるものなのではないでしょうか? 夢ですし、忘れてしまうとしても不思議ではないと思います」

「じゃあ何故ナマエちゃんたちのときは覚えて…?」

「んー…それは…」

「そういえば、ナマエさんのヴィトでデスサーティーンの能力を止めました。ぼくたちはそのおかげで助かったわけですから、目覚めた条件の違いではないでしょうか」


 花京院の言っていることを自分なりに整理してみると、夢の中でヴィトが夢の世界を支配する能力を止めたあとに目覚めたために、“忘れる”という作用が働かなかった。こんなところだろうか。たしかにこの説明ならば納得がいく。そしてヴィトの効果が切れポルナレフが襲われた、ということになる。すぐさま切れるのならばわたしや花京院が再度襲われたり昨夜のうちに他の人が襲われてもおかしくないはずなのだが……それは混乱していたからただ単に襲わなかっただけなのか?
 考えたところでわかりはしない。ヴィトの効果がどれだけ続くのか、一度試してみる必要があるようだ。考え込んでいたわたしに、ジョセフから驚いた声がかかる。


「ナマエちゃん、能力を止めることができるのか!?」

「え? あ、そうみたいですね。できそうにないと思ったんですが……、昨日デスサーティーンと戦った時に初めてわかりました」

「そうか! それは心強いな!」

「い、いえ、期待はしないでください。ポルナレフが襲われているかもしれないんですから、長くもたないようですし」

「それでも十分じゃよ」


 なんかほめ過ぎじゃないか……? わたしの能力に関しては、過小評価も過大評価もしないで受け止めてほしい。そんなことはジョセフもわかっていることだろうから、わたしを誉めてくれてるだけなんだろうけど……プレッシャーである。ヴィトさん、わたしという平凡な肉に対してちょっとチート気味になってきたのでは……?


「承太郎、ポルナレフ。きみたちはどう思う?」

「おれはやっぱセスナに乗ってるおれたちに追い付くこたぁないと思うぜ。みんなには本当申し訳ねーが、おれが暴れたのはおれのせいだろ」

「現状じゃ、はっきりは言えねーが気を付けるに越したことはねぇ。スタンドを出して寝ることにすりゃあいい」

「そうじゃな。わしも承太郎の意見に賛成だ」


 わたしと花京院は半ば納得がいかなかったが、とりあえずはそれでいいことにしよう。根本的解決にはならないが言い争って答えが出るものかと言えば、そうではないだろう。だって答えのわかっているわたしはそれが答えだと言えないのだから。ちらりとマニッシュ・ボーイを視界にいれてため息をついた。
mae ato

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