墜落した場所には幸いなことに水辺があり、顔を洗うこともでき水に困ることもなく一安心した。さて、赤ん坊のためとSOS信号を発信したため、明日にも助けが来ることは間違いないわけだが、どうしたものか。水辺で困りかねていると向こうで何かしらを言い合っているような大きな声が聞こえてきた。こんなときだというのに、何を言い合っているのやら。仲間割れしてる場合じゃないでしょうに。ため息をつきながら争っている方へ向かうと、ポルナレフと花京院がどうやら揉めているようだった。
「……どうかしたの?」
「聞いてくれよナマエ! 花京院のやつが、この子がスタンド使いじゃねーかって言うんだぜ!?」
「可能性として述べたまでだ!」
「あり得ねぇだろ! まだこんな小さいんだぜ?」
たしかに普通に考えたらそりゃあないかもしれないが、スタンドという普通でないものや百二十年生きている吸血鬼なんかがいる世界に普通を求めるなんてのは、おかしい気がする。しかしそれはわたしが元々マニッシュ・ボーイがスタンド使いだと知っているから言えることかもしれない。とりあえず二人の肩をぽんぽんと叩いて、落ち着くように促す。
「落ち着いて。ポルナレフの言うこんな子どもがっていうのはわかる」
「だろ!?」
「だけど、わたしも花京院くんの意見に賛成だよ」
「……はァ!? なんでだよ!」
「まずここにいる中でわたしたち以外が敵、と考えたら赤ん坊だから。それから熱があったからとは言え赤ん坊がわたしたちの飛行機に同乗したのは、タイミングが良すぎる気がする。あとはわたしは鼠や猫のスタンド使いを知っているから、子どもだから違うって考えはあまりないよ。そして夢の世界で襲われたときに、多分だけど赤ん坊の声を聞いた気がするんだ」
すべてを言い終えると、ポルナレフは顔を顰めっ面でわたしたち二人を睨んでいた。子どもっぽいところがあるから仕方ないとは思うが、あまりにも子どもっぽすぎる行動に何も言えないでいると、ふいと顔を背けて行ってしまった。頭を抱えたい気持ちになる。花京院も案外短気というか熱くなるところがあるから、どうしても衝突せずにはいられない。
だけどそれはお互い仲間を思ったり人を思ったりしているがゆえのことで、ひけないのだろう。眉を寄せながらも少しだけ悲しそうに俯く花京院の肩を叩いて慰める。
「あんまり気にしないようにしよう。どうせ救助が来たら別れるだろうし」
「……はい、そうですね」
ポルナレフが去ったことで空気がより一層気まずくなってしまったが、それをどうにか誤魔化して、ジョセフと承太郎にも考えていることを冷静に伝えることにした。
「承太郎、ジョースターさん、ちょっといいですか?」
「花京院、さっき揉めてたのは……」
「ええ、その話も含めてぼくたちから話したいことが」
「話したいこと?」
粗方説明し終えると、ジョセフはイギーの存在だって知っているはずなのに、あまり納得がいかないようだった。やはり子どもを疑いたくはないという意識が強いのだろう。子どもがいるのは唯一ジョセフだけだし、わたしたちにはわからないこともやはりあるとは思う。
それでもやはりジョセフは至って冷静で、そのことは可能性としてしっかり理解しておくと言ってくれた。承太郎はなるほどな、と頷いて、気付かれない程度にちらりとマニッシュ・ボーイに視線を向けた。
「何がかはよくわからなかったが、変な感じがしてた正体……たしかにあいつかもしれねーな」
「承太郎」
「まあ、あくまで可能性だ。確認のしようがねぇ……だけど生身なら間違いなく勝てるだろう」
あの赤ん坊を引き離すまではスタンド出して寝りゃあ、大丈夫だろう、と自分の発言にやや納得していないような表情で承太郎は呟く。目線はずらさぬままに、観察するかのような鋭い目線を向けていた。
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