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 気絶した花京院を寝袋に詰め、わたしたちも寝袋に入って就寝することにした。しかしわたしは眠るつもりはない。赤ん坊、マニッシュ・ボーイが本性を現すのをじっと待つ。ジョセフたちはスタンドを出すこともせず早々に眠りについたわけだが、わたしはヴィトを出していた。だからあの子は、わたしを夢の世界に引きずり込もうとはしないはず。
 パチパチ、
 火の燃える音だけが聞こえる。どうして全員で寝てしまうのか、わたしにはよくわからない。怖くないのだろうか。朝起きられなくなるかもしれないと、思ったことはないのだろうか。漫画だから──その言葉は今は通じないというのに、現実でも沿わされているというのことか。苦笑いしそうになった口をきゅっと閉じて、耳に集中することにした。


「ウブ…アブ…」


 ざりざりと砂の上を這いずる音。それからムシャムシャと食事をする音がして、そろそろいいかなあ、と目を開けて見れば赤ん坊が食事していた。わたしは目線をそらさずに、バサリと寝袋を退けた。振り向いたマニッシュ・ボーイに笑みを向ければ、彼は固まった。立ち上がり、近付き、屈む。


「やるんならバレないようにやらなきゃ駄目じゃん、ねえ?」

「ア……」

「今更赤ん坊ぶらなくても。ところで、普通にしゃべれないの?」


 キ、と睨まれても相手は赤ん坊だ。何にも怖くないどころか、寧ろくすぐったいくらいの目線。それでも話さないつもりなのか、はたまた舌が発達しておらず本当に話せないのかはわからない。右手を伸ばし、マニッシュ・ボーイの細く小さい首を掴む。肌の色は元々黒いのにも関わらず、面白いくらいに顔色が悪くなっていく。


「ねえ、わたしはね、別に君がスタンド使いじゃなかろうとも、ただ花京院くんが情緒不安定になっていただけだとしても……きみをころすのも、仕方ないかなあ、って思うんだよ」


 人なんて殺したくはないけれど。大したことでないと片付けてしまうかもしれない自分が怖いけれど。それでも仲間が苦しい思いをするより危険な目にあうより、辛いことではないはずだ。ヒ、と彼は息を飲んだ。


「しゃべれなくても意思表示くらいできるでしょう?」


 ぐ、と一瞬だけ首に力を入れてやれば、赤ん坊は息をつまらせた。これはわたしでも力を入れなくてもごきりと折ることができる、つまり、簡単に殺せる。どうかな? わたしがにっこりと笑えば赤ん坊はガタガタと震えはじめた。


「……お、…おれを…どうする、つもりだ」

「あら、喋れるんじゃないの。最初から喋ってくれればいいのに」


 ちょっとお願いを聞いてほしいだけなんだよ。赤ん坊、マニッシュ・ボーイがもう一度ぶるりと震えた。
mae ato

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