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 ポルナレフが落ち着いたところで、アヴドゥルがアラブの富豪を装って買ってきたという潜水艦が現れた。実はわたし、レアな経験があり、潜水艦に乗ったことがある。そのときは酔わなかったので、船の中なら断然潜水艦だ。そしてわたしにとって海の中というのは気分のいいもので、ハイプリエステスが来ることをわかっていても気が緩みそうだった。今回はそんなんじゃうっかり殺されかねない相手だということは理解しているので、気合いを入れ直してから中に入る。
 潜水艦の中はわたしの知っているものよりも、やはりどこか古めかしい印象を受けた。そこでここが一九八九年だという当たり前のことを思い出した。わたしが乗ったのは何十年も未来なのだから、当然と言えば当然か。


「花京院くん、手伝おうか」

「あ、じゃあ、お願いしてもいいですか?」


 しばらくわいわいとやりながら進んできたものの、花京院が簡易キッチンでがさごそとやり始めたので、わたしも席を立って近付いた。カップを六つ並べ、そこにコーヒーを注げば、やはりインスタントらしい安っぽい匂いがした。カップはまだ六つだ。人数分ある。この中の一つがすでに化けている可能性すらあるのだ。目を細めてみても、わたしには見分けがつかなかった。


「コーヒー入れたよ」

「入れましたよー」

「おー二人とも気が利くなー」


 今までバラバラの場所にいた皆がテーブルに集まってくる。花京院が皆にカップを配っていく。一つ、二つ、三つ、四つ、五つ、六つ……七つ! 首を傾げた花京院とポルナレフよりも前にである。わたしはこれがハイプリエステスであると確信し、とっさにヴィトでカップを動かさないようにしようと出現させた。ポルナレフが驚いた顔を、承太郎が怪訝な顔をした。


「ヴィト、カップを」


 動かさないようにして、と口にすると同時にハイプリエステスが変化を解いて飛びかかってくる。奇声を発しながら攻撃してきたハイプリエステスの手が、頬をちょっと裂いたくらいのところでヴィトの能力が発動した。わたしの心臓はバクバクと言って、大人しくならない。ヴィトの能力では空中に固定されるわけではないので、ハイプリエステスは床に転がった。その音で止まっていた皆が、一斉に慌て出した。


「今のは一体…!?」

「ナマエっ、大丈夫か!?」

「う、うん…び、びっくり、した……」

「血がすごい。ナマエ、手当てをするからこっちに来い」


 アヴドゥルに呼ばれよろよろとした歩調で向かえば、血がぼたぼたとセーラー服にこぼれて染み込んでいく。うわ、本当に結構出てる。止められてよかった、気を張ってなかったら本当に死んでたかもしれない。しかもよく考えたら、相手はミドラーだ。承太郎のことが好きな、ミドラー! すなわちいらん誤解や間違った嫉妬を向けてくる可能性がありすぎて、わたしから殺されかねない。うわあ……今気づいたけどそれってすっごい怖いことじゃない? もちろんDIOを優先するだろうが、承太郎のことはひいきするだろう。危うくわたしだけ段違いに危険な目に遭うところだった。


「よし、もういいぞ」

「あ、ありがとうございました」


 脳内で怖がっている間にアヴドゥルの的確そうな手当ては終わった。なんだか熱を持っている気がする。振り向けば花京院がすまなそうな顔でわたしを見ていたので、大丈夫だと笑っておいた。承太郎はスタープラチナでハイプリエステスを持ち上げると、まじまじとそれを観察してから、ジョセフに放り投げた。おおおお……承太郎、それは止まっているとはいえ、スタンドですよ。そんなふうに思っていたわたしに、衝撃的な言葉を投げかけてくる。


「よくスタンドだと気付いたな」


 なんの悪意も害意も猜疑心もなく、ただ不思議そうに感心したように、承太郎はわたしにそう言った。
mae ato

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