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「さっき、ポルナレフたちが襲われたじゃない? だからもしかして潜水艦もバレてるんじゃないかって思ってて。カップは六つしか出してなかったのに、七つに増えてたし。まさかスタンドかどうかは別にしても、もしかしたら誰かが忍び込んでて何かしてるかもしれないし注意するに越したことはないと思って」


 取ってつけたような理由を口にしながら、内心で、やばい、ミスった、と冷や汗がダラダラだった。焦りすぎてちょっと早口。しかも言い訳がましい。お、落ち着け自分。このまま敵だと疑われて、実はわたし異世界の未来から来たんだ、きらっ、なんて頭のおかしい発言をしたくはない。嘘の判定は出ないのでガチで精神を疑われてしまう可能性があるのも困ったものだね!
 幸いなことに、あの承太郎でさえただ感心したという良い感情だけのようだが、一歩間違えば完全に疑われていたことだったろう。不注意だったと思いながらも、今のとっさの反応は間違っていないのもまた事実だ。止められなかったらそれこそ死んでいたかもしれないんだし……ふー……。


「そしてそれが現実だったわけですね……ぼくの注意が足りないばかりにナマエさんに怪我をさせてしまいました」

「いや! 花京院くんのせいじゃないから!」


 軽く鬱モードに突入しそうな花京院の肩をぽんぽんと叩きながら、精一杯慰めてみても、花京院は女の子に怪我をさせてしまったという罪の意識でいっぱいらしい。本当に花京院が気にするようなことではないのだから気にしなくてもいいと言うのに。ポルナレフなんかとっくに興味をスタンドへ向けているし、承太郎に至っては最初からわたしを心配する言葉ひとつかけていない。……悲しい事実に気付いちゃったね。スタンドを義手で持ったジョセフがちらりとアヴドゥルを見た。


「アヴドゥル、こいつについて何か知っていることは?」

「金属やガラスなどの鉱物なら何にでも化けられるスタンド……聞いたことがあります。女教皇でしょう。スタンド使いの名はミドラーというやつ……かなり遠隔からでも操れるスタンドですから、本体は海上でしょう」

「はー……なるほどな。しかしまあ、こいつはどっからこの潜水艦にもぐり込んで来たんだ?」


 途端、まるでタイミングを図ったかのようにポルナレフの背後から水が飛び出してきた。ゆっくりとポルナレフは振り返ると、あまりのことにやや現実逃避したような口調で、「なるほどこーゆーこと? 単純ね……穴をあけて入ってきたのね?」と呟いた。若干カマ臭いのは混乱していると言うことだろう。酸素がある分、飛行機が墜落する方がまだましな気がする。本当に怖いよ、潜水艦の水没はさ!
 アヴドゥルやジョセフや花京院たちが計器やモニタを見て、酸素がないだの浮上システムを壊していやがっただの航行不可能だだのと不安を煽る言葉を口にして、ひきっつった笑顔のわたしは血の気が引いていく。ミドラーここで止めたんじゃ遅かったのか! ほんとうに! 窒息は! 嫌!


「つかまれッ! 海底に激突するぞッ!」


 アヴドゥルの鋭い声が艦内に響き渡り、わたしは混乱していると近くにいたポルナレフがわたしを抱え込んでくれた。お礼を言う間もなく、衝撃。もしポルナレフが艦内の何かをつかんでいなかったらと思うとすこしばかりぞっとした。頭脳じゃなく肉体を使う方が一介の女子大生には辛い。


「もうこの潜水艦はダメじゃ、外に出るぞ!」

「ええ!? どうすんだよ!」


 ジョセフが先陣を切って隣の部屋へと入っていき、わたしたちもそれに続けば、そこは緊急用なのかそれとも探索用なのか、スキューバの用具一式が揃えてあった。やはり地味に古めかしいので、ちょっとした不安が湧き上がる。しかしこれで出なきゃ百パーセント死ぬことになる、それは勘弁したい。


「この中でスキューバ・ダイビングダイビングの経験のある者は?」

「ない」

「ない」

「ありません」

「わたし、ライセンス持ってます」


 意外だったのか、わたしに視線が集まったので居心地が悪い。だが、わたし基本アクティブじゃないから、うん、そう思われても仕方ない。どのライセンスを持っているのかと聞かれ、ダイブマスターであることを伝えると、ジョセフ以外はきょとんとした顔になった。しかしジョセフはわたしの言葉ににっこりと笑う、あ、嫌な予感。


「プロの入門、ってことじゃな」

「ええ!? すげぇじゃねぇかナマエ」

「いや、そんな」

「というわけで、わしより経験も知識もあるじゃろう。説明はまかせたよ」


 面倒なことになったと思いながら、装具に手を伸ばす。だらだら説明している時間はない。焦らずに外にさっさと出ねば!
mae ato

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