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 今は暖かいとは言えこのままずぶぬれでは皆が皆風邪を引く。その前に近くの街で宿をとることにした。シャワーを浴びたあと、ジョセフがハイプリエステスを倒したご褒美だと言ってお金をくれたので暇そうにしていた承太郎を連れ回し街に出掛けたり、夜ご飯になっても部屋から出てこないポルナレフを起こして食事を取ったりと、至って平和な時間が流れた。
 部屋に戻り、もう一度風呂に入ってから、ベッドに潜り込む。ヴィトを懐に抱え込めば、自分で自分を抱きしめるという大変切ないことになったが、わたしは寝やすいのでよしとすることにして眠りについた。









 起きてから眠気眼で身だしなみを整え、荷物をまとめ、部屋に届いた朝食を平らげぼうっと天井を見上げる。さて、……今日からは、怒濤の日々になるだろう。考えてみるとこの旅もあと二週間ほどになるわけだ。あと二週間、それですべてが、決まるわけで……うーむ、心配してるといけないから、とりあえずデーボにでも電話しておくかなあ。国際電話の方法は先日花京院に教わったばかりなので、ひとりでも問題なくスムーズに行えた。リリリリ、と電話の奥で電子音が跳ねるように響き渡った。


『……なんだ?』


 電話に出てまずなんだ、って普通言う? せめて誰だ、じゃないのかな。そんなことを考えたらすこしだけ笑えて、電話の向こうには見えなくてよかったと思った。声まで笑わないように気をつけながら、わたしはわざとふざけた口調で声をかけた。


「あ、デーボさんですか? ナマエでーす」

『テメェ今何時だと思ってやがる、ふざけてんのか』

「え、……あ、時差!? ごめんなさい」


 完全に時差なんてものを忘れていたわたしは素直にデーボに謝った。すると別に構わねえが、なんて言ってくれる。もしかしてツンデレなのかな、と思ったがどうせ意味が通じないし、通じたところで怒られるので口には出さなかった。夜中なのかもしれないので、デーボの健康のためにもさっさと用件に入ることにした。


「あ、そうそう、今回電話したのはね」

『……ああ、なんだ?』

「多分、あと二週間くらいだと思うんだ、この旅も」

『…………ああ』


 それは二週間以内にDIOと戦うことになるということで。そうでなければホリィさんが命を落としてしまう、ということになるわけで。当然わたしたちは戦うことを目的にしているからどうしたって戦いにいくわけで。DIOの強さはデーボもわかっているから、自然と声のトーンは下がってしまって。
 心配してくれてるんだな、と嬉しくて顔が綻んだ。不思議、一度しか会ったことのない人なのに。今の電話を含めたって、たったの三回それだけだ。今考えても初対面の人間にあんなことを言ったわたしって変なやつだな、と改めて思う。でも、わたしは正解を選び取ったとも思うの。


「大丈夫、負けないよ」

『……ああ』

「デーボはとりあえずわたしが帰ったら行きたいとこ、考えておいてね。わたし、旅行したいんだぁ。ルーブル美術館行きたいなあ。あとラス・ベガス!」

『美術館はともかく、お前にギャンブル合わないと思うがな』

「えー? そう?」

『お前は破滅型だろう。やめた方が無難だ』

「……破滅に向かって一直線っていうのは、そうだね、否めないかなぁ…」

『やめとけ』

「だが断る」


 笑いながら言うとデーボの深いため息が聞こえた。だけれどわたしはギャンブルがどうしようもなく好きなので、きっと誰に何を言われたってやめることはないのだろうなあ。ただデーボのお願いなら多少の自重はしようかな……あんまりいい趣味じゃないしね。
 トントン、と扉を叩く音のあと、花京院が現れた。戻ってきたらしい。手をあげて挨拶。花京院はわたしが電話しているのに気付いて出ていこうとしたが、それを手で制した。


「それじゃあデーボ、そろそろ行くから切るね」

『ああ。気を付けろよ』

「勿論。おやすみ、いい夢を」

『おやすみ』


 がちゃり、と受話器を置いて、ぐ、と伸びをする。振り返れば花京院がおはようございます、と頭を下げた。わざわざ電話が終わるまで待っててくれる花京院って、本当にいい子だなあ。わたしもにっこりと笑顔を作って挨拶を返した。


「おはよう、それじゃあ行こうか」

mae ato

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