118
 ンドゥールが花京院とアヴドゥルから何らかのやり返しを受けるという条件つきで、ジョセフとポルナレフもンドゥールのことについて認めてくれた。デーボとは違い、能力は段違いに危ないのだが、以前止めたスタンド使いたちの能力がいまだに解除されていないという前提もあり、それもまた許された要因のひとつだろう。なにより、デーボの一件から仕方ないと諦めているところもあると思われる。意外なほど、あっさり認めてくれた。これについてはわたしからも花京院たちにも謝らなければならない。
 さて、それは明日やることだからひとまずいいとして。わたしは今、ホテルのロビー横、電話の前で息を整えている。絶対に、怒られる。間違いなく怒られる。怒鳴られる。キレられる。断言できてしまうほどに、想像がすごく容易いデーボの声を思い浮かべては電話に伸ばす手が止まる。……怖い、怖いぞ。しかしここで電話をいれなかったら、後々引き合わせたときに本気で怒られると言うかもっと良くないことになりそうと言うか。……とにかく今電話しなければならない。深呼吸して、受話器を取った。慣れたとはいえない国際電話で取り次いでもらう。


『……ナマエか…?』

「は、はい! そうであります!」

『……おまえ、何をした?』


 どっきーん!!! 口から心臓出そうなほど、その効果音が似合う瞬間だった。デーボはわたしの親か何かじゃないだろうか。悪いことをしたわたしが、動揺を隠せないときに見破る母のようだ。だって何かあったのか、ではなく、何をした? だ。完全に何かしちゃったことがバレている。モロバレだ。しかもよくよく考えたら時差がある。向こうは朝じゃないか。うわあ、機嫌悪そう……口からヘドロとか出せそう……。


『何をしたか聞いてるんだがなあ……?』

「ひいっ! ご、ごめんなさあい!」


 もし目の前にいたら土下座ぐらいしたと思う。しかも涙目で。ぜんぜんやるよわたし、プライドなんかないもの。向こうも多分、それくらい思っていた。そんな声だった絶対。地を這うような声を聞かせられたわたしはビビりながらも息を整えて、ゆっくりと口を開いた。


「じ……実はですね、その、……敵のうちの一人がですね」

『怪我したのか』

「いや、それもあるんですけど」

『それも、だと……?』

「ひいっ!」


 デーボさんマジ怖い。めっちゃ怒ってらっしゃる。わたしDIO戦前に余裕で死ねるかもしれない、ショック死で。怒られるのって本当に嫌なんだよ。胃がきりきりというか、きちきちするというか。とにかく身体と精神に多大なる負担を強いられるから嫌いなんだよなぁ……きっといくつになっても慣れないだろう。
 そんな現実逃避は、デーボの、おい、という言葉で終わりを告げた。逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ! だってもっと怒られるじゃないか!


「その人がさ、なんていうかさ、ほら、あのね、えーと、あの、……一緒に住もうって言っちゃった」

『……あ゛?』

「ごめん! ほんと! デーボの許可も取らないで! でも安心して! 一番はデーボだから! ね! 一番に愛してるから! ね! ホント! すき! ちゅ!」

『…………お前、馬鹿だろ』


 お前は警戒心がないとか、全くこれだからお前はなんてぶつぶつと独り言をひとしきり呟いたデーボは、もう一度呆れたようにため息を吐いた。怪我は大丈夫なのか。デーボのその言葉に思わず顔が綻ぶ。そして右手に穴が開いてしまったことを伝えると、ンドゥールが一員になることなんて比較にならないほど本気で怒られたのだった。
mae ato

modoru top