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「あれ。ポルナレフがいない」

「……ポルナレフの野郎…またか」


 先ほどまで傍にいたはずのポルナレフが急に姿を消した。全員で辺りを見渡してみるものの、あんなに目立つ髪形なのにそれらしき人物は見当たらない。周りがまたあいつかとばかりにため息をつく。わたしはというと原作を必死に思い出そうとしていたが、ぼんやりとしか思い出せない。最後に読んでから、ずいぶん経つのもあれば、この半年色々あり過ぎたのもあるだろう。
 ポルナレフが一人になったら危ない目に遭うような話は……いや待って、まさかアヌビス神? アヌビス神ってこのタイミングだっけ? あれ、あの兄弟にはまだ会ってないけど、もしかして、もうみんな会っている感じだったりする……? でも待って、たぶん、敵に会ったことすら気づいていないはずだ。聞いたところでわかりはしない。やばい。今どの地点だ?


「ねえお嬢さん! パピルス買わない? パピルスは紙の起源ね…」


 にぃこりと粘っこい笑顔の商人が、パピルスであると差し出したのはよくわからないものだったが、とりあえずわたしにも高価なものでないのはわかる。ため息を吐きながらそれを受け取り、そして付き返す。


「紙の起源は中国の蔡侯紙じゃない? 紙、というにはパピルスは使い勝手が悪いし、どちらかというと麻袋みたいなもんだし。まあそれは人の考え方次第か。そもそもパピルスは三枚千円とかで買えるんじゃなかったかな、普通の土産屋で。しかも基本、その絵は素人の描いたもの。高いものならそんなふうに扱わないでしょう」


 商人は口をあんぐりと開けた体勢を暫し続けてから、慌てて逃げていく。馬鹿め。こういうのはもっと知らない女の子とかに聞かなきゃあ駄目じゃないか。わたしも学校の教養科目で先生が話していたから知ってただけだど。
 追い払ってから、思い出す。やっぱりアヌビス神だ。パピルス売りのおじさんが出てきて、近くに、神殿? 神殿が確かあったはず。周りを見渡してみると、神殿のような遺跡のような、そんなものが見える。ああ、やっぱりそうだ。アヌビス神だ。さすがにまずいって! そのとき白亜の建物から何かが崩れる音がした。現地の人間もなにかあったのかと首を傾げている。まったく別の方向を探していた三人に声をかけた。


「向こうですごい音がしてます! もしかしたら、ポルナレフが戦っているのかも!」

「なんじゃと?!」

「周りの人たちもじきに騒ぎ始めます。ジョースターさん行ってみましょう、面倒ごとになる前に」

「そうだな。みんな、行こう!」


 ジョセフを先頭にして皆でポルナレフのいるであろう場所に向かう。わたしはどこかに行こうとしていたイギーの首根っこをつかみ、そのまま暴れる身体を押さえつけながら向かった。着いてみると予想通りチャカとポルナレフがいた。チャカがぐったりと倒れており、ポルナレフは無事だった。ひとまずホッとする。やばかった……無事でよかった。
 安心している横で、会話が進められている。ポルナレフに言わせれば命は助かるらしい。ジョセフはこれから周りの人間が来るだろうし、逃げてしまおうと提案した。頷いて、わたしは未だ暴れるイギーを押さえ込みながら、彼らの後を追う。──ポルナレフの手に、あの剣が握られているのを見ながら。
mae ato

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