122
「ま、待てよ! その刀がスタンドなわけねーだろ?」

「……どうして?」

「だっておまえ、それなりに強いスタンドってことは、本体から離れたらなくなるはずだぜ? 元々何かの物体をもとにしているってんなら、元の形に戻っちまうはずだろ!」

「ポルナレフが言ってることも、間違っちゃあいねえ……ナマエはどう思ってんだ」


 承太郎の目線が突き刺さる。なんというか、ポルナレフの言い様は予定外だった。忘れていたとも言う。きっとポルナレフが言わなければ、承太郎が指摘してきたに違いない。承太郎は聡いだけにいらんことまで気付いてくれちゃうんだもんなあ。
 ……その刀はアヌビス神って言って、物体を通り抜けられるスタンドなんだよー。触るとその人が宿主化しちゃうんだよー。危ないんだよー。って、本当のことをバッと吐き出せたらいいのに。当然そういうわけにはいかない。頭の中の考えをまとめ、自分の良い様に捻じ曲げた事実をゆっくりと口にしていく。


「……実は、その刀を知ってる、と思う」

「な?! マジかよ!」

「本当なのか?」


 承太郎の目がすこし細められた。こういうのは先に言わないと、なんで今まで黙ってたんだ、とか、疑われる要素になりかねないから絶対やりたくなかったのに……! もっともさっきまでは知っているということを話すつもりはなかったのだから、悔やんだところでどうしようもないのだけれど。ここまで一緒に戦ってきて疑いの目を向けられているとは思わないが、一応、違うものかもしれないけど、と言い訳じみた言葉を付け足して話を続ける。


「多分、ね。確証はないから言いたくなかったんだけど……エジプトの博物館に保管してあるとかって大学の授業で写真を見たことがあるの。それによく似てる。……たしか、ずっと前、500年くらい前に作られたもののはずだよ」

「500年前……? 博物館……? ならやっぱりそれはスタンドじゃあねーじゃねーか! 500年前のものなんだぜ?」

「待てポルナレフ。それが本当なら、わざわざ博物館からその刀を持ち出す意味はなんだ?」


 え、と間抜けに口を開いたままのポルナレフは、固まってしまった。骨董品的な価値があるとはいえ、間違いなく500年も前の刀より現代技術の刀の方が切れ味はいいはずだ。もしかしたら盗んだ刀では折れてしまうかもしれない。DIOの部下がいくらおっちょこちょいとはいえ、さすがにそんなことをしなければならない理由など、“相当変な信念を持ってる人”くらいの理由しか思いつかない。考え黙ってしまったポルナレフと話を促すように口を閉じた承太郎に問う。


「わたしの仮説にしか過ぎない考えだけど、聞いてくれる?」


 本当は仮説でもなんでもなく、事実という名の原作に余計な設定を付加したものだけれど。承太郎は頷き、ポルナレフはああと返事をした。ひとつ深呼吸して、設定厨らしい偽物の“仮説”を話し始めた。


「500年前、この刀を打った刀鍛冶がスタンド使いじゃないかなって思うんだよ」

「はあッ!? おま、そんなの死んじまってんだろ!」

「そりゃあもし生きてたらそれは人間じゃないけど、そうじゃなくてさ。たとえば、その人の能力が“作ったものにスタンド能力が付く”……とかだったら?」

「お前なあ……ねーだろ」


 ポルナレフが呆れた顔をしてため息をついた。じゃあてめーもなんか案出せっつーんだばかやろー! なんて思ったのが、表情に出ていたのかポルナレフは呻きながら考え始めた。わたしにはもうこれ以上の考えられないので、まだ文句をつけてくるというのなら、こちらからもごり押しする気でいる。最終的には子供のような喧嘩になること請け合いである。全面戦争も厭わない覚悟をしていたわたしの耳に飛び込んできたのは、承太郎の支援だった。


「いや、あながちそうとは言えねーな。それならその刀が持ち出されたことも、スタンド使いが近くにいないことも、そしてさっきのスタンド使いが刀の扱いが素人だったことも説明できるぜ。ナマエの考えが正しいのなら、この刀は所有者が“スタンド使い”になるはずだ……その所有者の定義はわからねーが……当てはまったら、操られちまうかもな」

「あ、操るゥ? なんでまた」

「考えてもみろ。おれたちは自分の持つスタンドは自分と同一の存在だ。だが他のスタンドならどうだ? 人間とスタンド……スタンドはスタンドによってでしか倒せない……優位な存在は明らかだ。──おれの母親がそうであるように」


 そう言った横顔は、母親のことを思っていたのだろうか。噛み締められた唇がぎりりと悲鳴をあげた。すこしだけ重苦しい空気を払拭したのは、ポルナレフだった。トコ屋のおじさんの作業が終わり、立ち上がったポルナレフが背筋を伸ばしながらわたしたちを見た。


「よしッ! まだ正直あんまり納得はできてねえけどよ、もしもってことがあるといけねーから、誰も触れねーようなとこに捨てちまおうぜ!」

mae ato

modoru top