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 原作以上の強さ。そんな言葉が脳内に浮かぶ。それはトコ屋のおやじよりも圧倒的にポルナレフの肉体の方が優秀なだけかもしれないし、あるいはただ強いだけかもしれないけれど。余計なことを考えて、余裕があるふりをする。そうすると脳みそがすこしでも勘違いを起こし、萎縮している身体がほんのすこしではあるがまともになった。ポルナレフがにたりと笑う。


「フフフフフ、この『アヌビス神』スター・プラチナの動きはもう憶えたのを忘れるな。一度闘った相手にはもう絶っ」


 無駄とも思えるすさまじい溜めのあと、対に負けんのだァァァァァァ──!! と叫び声をあげながらまた飛び掛ってくるポルナレフに対し、承太郎も引けを取らない速さの拳で応戦する。激しい打ち合いが続く。闘えないわたしは役立たずだ。ここでジョセフたちを呼びに行けたらいいのだが、生憎トコ屋で話し合うまで上の空だったため、ジョセフたちいる場所がわからないのである。本当に役立たずすぎ! ゴミ! こんなところでぼうっとしている場合ではないというのに! 白刃取りに失敗した承太郎が頭突きでどうにか剣を回避する。二人とも吹っ飛ばされた。


「……ヴィト、防護壁の用意だけしといて。わたしが今って言ったら、防護壁だよ」

「是」


 頭から血を流す承太郎の傍に駆け寄り、立ち上がるのを手伝ってやる。苦い顔。どうやったら勝てるのか、模索してもわからないといった顔をしている。わたしたちはポルナレフを殺すわけにはいかないのだから、当然と言ったら当然である。承太郎の耳元でこそりと呟く。


「…わたしが、隙を突いてあいつの動きを止めるから……チャンスは一回だけだけど…その間に壊してくれる?」

「! ……ああ。全力で連打を叩き込んでやる…おい、危ねーことはすんなよ」


 多少の危険はつき物なのではっきりイエスとは言わない。隙を突くためにはまず承太郎が頑張らなきゃならない。本当はもっと前に助けてやれればよかったのだが、思い浮かんだのが今なのだから、申し訳ないとは思うが仕方ない。ふ、ふ、と短い呼吸を繰り返して、わたしは良い位置を探して少し距離をとった。ポルナレフが立ち上がりこきこきと肩を鳴らした。


「フフフフフフフフフフ。失敗した白刃取りを頭突きで交わすとはな……あともうちょっとで仕止められたのにおしかったぜ。──しかしそれももう、“憶えた”」


 ダメ押し、そう自慢げに言いながらポルナレフは刀を上に放り投げ、現れたチャリオッツがアヌビス神を受け取る。これはちょっとした絶望だろう。レベルカンストさせたキャラをプロゲーマーが使うくらい鬼畜プレイだ。わたしが承太郎だったら走って逃げる、最初から闘わない。今回は、そんなこと許されないわけだけども。息を整え、タイミングを計る。スタープラチナとチャリオッツの凄まじい拳と剣の応酬が続く。ポルナレフの高らかな叫び、横向きに振りかぶられた剣、距離、タイミング──


「今ッ!」

「是」


 防護壁がスタープラチナとチャリオッツの間に現れた。ちょうど、チャリオッツの右手で止まっている。今回は守るために使わなかったが、防護壁は言葉通り壁である。壁の中にいるポルナレフとチャリオッツをアヌビス神と承太郎に分断する。今は動けないだろうがポルナレフの身体を気にしなければそのままむりやりにでもチャリオッツの手首を動かしてしまえばいい。しかし承太郎はそんな隙を与えない。すさまじい拳のラッシュがアヌビス神を襲った。刀がバラバラに砕けて──ポルナレフの身体が崩れ落ちた。


「やった、のか……?」

「……多分、」


 承太郎はほとほと疲れたように腰を落とし、目をぎゅっと瞑っていた。息が上がっているし、汗のかき方も尋常じゃない。傷だらけの彼を病院に連れて行かねば。わたしも息を正し、立ち上がる。ポルナレフを起こし、承太郎をに手を貸さなければならない。手を伸ばそうとした瞬間、ぱあん、と音が響いた。
 そして、薬莢の転がる音、悲鳴、驚いた顔、誰の、血、赤い、ふざけた冷たい声、変な臭い、嗚呼、よくないことが起こるんだ、あれ、わたしは──ここは──どこ?
mae ato

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