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 振り向けばそれはなんてことはない、ただのリボルバー拳銃で、見るからに古そうな佇まいだというのにこちらに銃口を向けている。その深淵とも思える深い暗闇を匂わす口からは、灰色がかった煙が上がっている。硝煙の臭いがツンと鼻を刺激した。気管支がやられるような煙たさの中に金属臭さが混じり込んでいる。即ち拳銃は撃たれたのだ。どこかに向かい、何かを狙って。さて。その弾丸の向かった先が検討もつかなかった。首をゆっくりと右に傾げると視界の左の端に赤いものが見える。赤。視線をゆっくり向ければそれが肩を侵食していた。何故赤くなっているのだろう。不思議で仕方がなかった。視線を銃へと戻す。やはり銃口はこちらへ向けられている。


「わたしに」


 薬莢の転がる音、悲鳴、驚いた顔、誰の、血、赤い、ふざけた冷たい声、変な臭い、嗚呼、よくないことが起こるんだ、ぐらぐらぐるぐる、回る。ここは、どこだ? ──エジプト。そうだ、わたしは承太郎たちと旅をしていて今はアヌビス神が、──それは本当? 事実? これは夢なのではないか。本当はまだ銀行にいて意識を飛ばしているのではないか。あの銃はこちらへ向かい、その爪を今まさに振りかざそうとしている最中なのだ。今も身体は死に続け精神は逃れ続けている。いやそれともそもそもジョジョの世界に来たなどという妄想を抱いているだけなのではないか。わたしは逃げたかった。あそこから。あのときから。ずっと。


「銃を」


 向けられた銃が何かをしゃべっている。煩わしい声。キィキィと金切り声でがなり散らして何を言いたいのかは全く伝わってこなかった。早くその口を塞いでやらなくちゃあならない。詰められるものをたくさん詰めて。土、そうだ土がいい。鉛もいいかもしれない。それから鉄もいいはずだ。金属には金属が喜ばれる。そのあとは布できっちりと縛ってもう二度と出さないようにしまう。それがいい。きっと彼もそう望んでいるはずだ。目を瞑り、そして開く。わたしの景色は百八十度転換した。


「向けるな」


 断末魔が、聞こえる。
mae ato

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