何も考えられないほど、左肩が痛んだ。この旅では噛まれたことやガラスが突き刺さったり、ダンに蹴り飛ばされたり、ンドゥールの水に貫かれたこともあった。その中で群を抜いて、これが熱い。赤くなるまで熱した鉄製の火掻き棒で肩口をひっかき回されている気分だ。そんなことされたことはないけど。ジョセフたちが駆けつけ、病院に連れて行かれる頃には意識がぼうっとして、何もわからなかった。
わたしは手術の後、入院することを勧められた。動けるようになるまで最低でも一週間はかかると言われたのだ。勿論それではDIO戦に間に合わない。DIO戦は満月の日。ちょうど一週間でも、ここで寝ていたら、間に合わない。
「リタイアなんてしませんよ。動けます、これくらい」
「しかしナマエちゃん! 弾が貫通しておったということは、それだけ傷も大きいということじゃぞ! いざというとき、ナマエちゃんに何かあったら……!」
「ダメです」
それだけはダメなのだ。あなたたちにはまだわからないことだけれど、このまま原作通りに進んだらとんでもないことになることを知っているのは、それを伝えられないわたしだけなのだから。ここまで来て悠々とベッドの中で過ごせるわけもない。わたしだけ安全な場所で、仲間が死ぬのを待つことなどできない。死にたくないから隠れていたい気持ちは、ないわけではない。原作を変えてしまった結果をアヌビス神でよく理解したつもりだ。動かさなくても痛む傷は、やめろという最終警告かもしれない。だけど。それでも。わたしは。
「絶対に行きます。怪我はもとより覚悟の上です。他の皆さんだって、似たような大怪我をしてここまで来ました。わたしが残らなければならない理由はないはずです」
血まみれになりながらここまで来たのは、わたしだけじゃない。どうにかして守りたい。力のないわたしだけどできることはあるはずだから。
想いを告げても、ジョセフは首を縦に振らなかった。わかるよ。そりゃね、孫と近い年の女の子にやらせることじゃないし、何より、わたしがDIOに対して一番無関係だから。手術して、安静にしてないと命に係わる状態で、普通なら絶対に連れていくはずがない。だったら、もうすこしキツい言い方を、と口を開く前に、承太郎がジョセフに待ったをかけた。
「連れて行った方がいい」
「承太郎、お前まで何を言う! 駄目じゃ! 絶〜〜〜〜っ対にそれは認められん!」
「よく考えてみろじじい。こいつはこういうとき、絶対に自分を曲げねえ。置いていかれたら間違いなくここを逃げ出すぞ。それからおれたちを追いかけてくる。先にDIOのところに着いちまうかもしれねーな、場所はわかってるんだ。逆に言えばDIOの館の方にたどりつければいいが、どこかに行っちまったらどうする? 迷っちまったら? 連れ去られたら? じじい……こいつを殺す気か?」
思わず承太郎を凝視してしまうほど、わたしに対しての適切な説明だった。置いていかれたらそれは追いかける。ダメって言われてもそりゃあ、知るかとばかりに能力を行使しまくって向かう。でもそれを理解されてしまうと、なんかそれは自分が犬みたいだと言われているようで少しばかり落ち込む。まあ、ジョセフも黙り込んでしまったのでとりあえずよしとしよう。承太郎は一呼吸置いて、まっすぐな眼差しをジョセフに向け口を開いた。
「おれが守る。それなら文句はねーだろ」
ごふっ、と口からなんか出た台詞だった。そんな恥ずかしくてくさい台詞がまさか承太郎の口から出るとは夢にも思っていなかったわけでありまして。いやでも主人公なんだからそれくらいのことは言ってもおかしくないのか? 目と口を半開きで信じられないと見ていたのが悪かったのだろうか、承太郎はいささか不満そうな顔をしてわたしの頭をそこそこの力でぐうと握った。
「あ? 不満か?」
「いたたたたたたたた何の異論もございませんすみませんありがとうございますっ!」
「ふん、わかりゃあいいんだよ」
何この暴君。良い子の空条くんどこに行ったの。
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