翌日、肩の痛みで目が覚めたわたしは、旅についていけるのか若干不安になっていた。このままでは足手まといオブ足手まといになってしまう。医者に腕を吊ってもらいながら、歯を食いしばって痛みに耐え、看護婦にえらいわねと褒められるという非常にいただけない展開になったりしたが、わたしの顔は童顔(第三者視点)であるためそれも仕方がない。これからも連日敵がやってくるはずだ。その中には、あいつも含まれている。そう考えると気合を入れなおさなければならない。
迎えにきてくれた四人と一緒にを病院を出て、船に乗り込んだ。河を上ってルクソールへと向かう。敵が襲ってこないという安堵感からか、ぼうっとしているうちにすこしうとうとし始めていた。
「おい」
「…………へっ…?」
「着いたぞ」
「あ……ああ、うん、ごめんね」
承太郎の声で起こされ、顔を上げると陸地が見えていた。おまえはのび太くんか的な目線を向けていた承太郎が船を降りていく。その後ろについて、やや重い足取りでとぼとぼと歩いていく。どうやら街はそんなに遠くはないようで、十五分程度で着くらしい。わたしの荷物はそんなに多くはないが、怪我人だからとポルナレフが持ってくれた。お兄ちゃん気質なんだろうなあ。こういうのは家族を思いやる気持ちがないとなかなか身につかないものだと思う。歩いて数分の後、急にジョセフが立ち止まった。
「どうかしたのか、じじい」
「あれはトイレじゃな? ちょっと行ってくるから、待っとってくれ」
「わかりました。あ、じゃあ危険のないようにイギーも連れて行ってください」
「ああ、そうするかの。イギー! ついてきてくれ」
やる気のなさそうなイギーがため息をついてジョセフのあとをついていく。仕方ねえなあ、とか、お前らは本当に世話が焼けるんだから、と言ったような雰囲気が背中から感じられる。わたしは一応、変なものがあっても触らないようにと声をかけたが、どうせジョセフのことだ、人の話など聞きやしないだろう。さて……。ちらりと承太郎を見上げれば、ばっちり視線があった。
「どうした」
「せっかくだからうろうろしません?」
「お前はガキか……、危ねーからやめとけ」
「うん。だからさ、ちょっとついてきてほしいんだけど」
「……じっとしとけ」
「いいじゃない、いいじゃない。見晴らしはいいから、迷子にもならないし、万が一仲間を襲われてもすぐにたどり着ける。それに空条くん言ったよね?」
「……何をだ」
「わたしを守ってくれるんでしょう?」
にまーっと笑顔で念押しすれば、承太郎はじじいが帰ってくるまでだぞと盛大なため息をついた。よっしゃ、押し勝った! このままバステト女神ことマライヤを見付けられれば、それがなかなか効果的なのだが、そういうわけには……やはりいかなかった。目を凝らしてみても、マライヤは見つからない。
「何やってんだ」
「……いやあ、なんか面白いものないかなあ、って。そうだ、スタープラチナさんでちょっと見渡して見てよ!」
承太郎はわたしのアホみたいな無茶ぶりに、またため息をついて、しかしスタープラチナを出してぐるりと一周、何かないかと観察してくれた。いや本当にいい子すぎる。わたしのむちゃぶり、意味わかんないだろうに。別に拒否してもいいはずなのに、やってくれるんだもんなぁ。これでマライヤが見つかったりしないだろうか。承太郎は特に何の反応も見せず、スタープラチナを消した。何もなかったか……仕方ない、残念だがアヴドゥルとジョセフにはゲイと勘違いされるイベントを頑張ってもらおう。
「あそこに」
そう思ったわたしに承太郎は声をかけた。指をピッと差した先には岩しかない。しいて面白い形と言うわけでもないし、大して面白いものも見えず、首を傾げてみせる。承太郎は目線をまっすぐその岩へと固定したまま、意図的に圧し殺したような小さな声でぽつりと呟いた。
「怪しい女がいる」
──ビンゴ!
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