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 ジョセフから逃げることも出来なかったマライヤは現在、テレビがないと尋問のしようがないということでホテルまで連れてこられた。ここでマライヤが叫んだらわたしたちに変な疑いがかけられ警察のお世話になりかねないので、身体と能力は街へ入る前に止めさせてもらった。
 案内されたホテルの一室に入ると、さすがに話せないと困るということで、身体の動きだけは解除する。深いため息をついて、マライヤは髪の毛を掻きあげた。妙に色っぽいんたなあ、と同性でありながら思わず見惚れてしまう。褐色の肌に金色の髪、ぽってりとした唇、そしてその唇に挟まれた煙草。そうして随分と堂々しているマライヤに、苛立つこともなく寧ろ感心した。


「で? DIO様のことでも聞きたいの?」

「そうじゃ。わしらには情報が必要だからな。正確な居場所、残りの敵。そして何よりも──DIOの能力」

「フフ、い・や」


 自分の任務が失敗したと言うのに随分と余裕があるようだった。DIOに何かされたりしないのだろうか。それともわたしたちには殺されないとわかっているから? まあ、たしかに殺さないだろうけど。戦う意志さえ見せなければ、ひどい目には合わないだろうっていうのは、案外間違ってはいない。わたしたちは襲い掛かってくる敵をボコボコにすることはあっても、何もしてこない相手にひどいことはしないのである。マライヤが承太郎のことを見て、にたりと赤い舌をみせて笑う。


「情報をばらしてDIO様に被害が出るなら死のうかしら?」


 なるほどね。そういうことかぁ。これは承太郎に対する当てつけだ。ンドゥールにしたように、わたしにもやってみせろっていう、煽りである。
 ……情報が洩れるの、早いね。SPW財団にスパイがいるか、ンドゥール本人の告解か、諜報活動してそうな人が情報引っこ抜いてきているか……それがマライヤって可能性もあるけど、真偽はさだかではないよね。まあなんにせよ、情報は駄々洩れだと思った方がいいってことかな。隠せるようなもんでもないし、なんか隠さなきゃいけないようなことってあんまりないけどね! バレてると思って行動しているし、実際行き先くらいは簡単にバレ……って、ああ、そもそもDIO、ハーミットパープル使えるんだから、隠し事も何もなかったな……。
 ついでに言うとマライヤの言い方、ちょっとカチンときたかな。自分が煽られてもべつにってなるけど、さすがにね、いい子の空条承太郎に対し、その物言いはカチンとくるよね。


「……何が言いたい」

「そう、助けてくれないのね? ンドゥールとは随分対応が違うじゃない。──クソッタレの偽善者」


 承太郎が立ち上がった勢いで、椅子がガタンと倒れた。そのまま承太郎はマライヤの首元に掴みかかる。いつもの冷静さはどこに行ったのかと思うほど、その目は苛立っているように見える。驚いた皆が掴みかかった承太郎を引き剥がしにかかった。


「落ち着け承太郎!」

「ッ!」

「フフフ、怒っちゃって馬鹿みたい! だってそうでしょう、あんたたちはDIO様を殺すくせに他を救ってみたりして! それで正当化したつもり?」


 それは紛れもない事実だ。でもそれとこれとは話が別なのである。DIOを殺すことと、他を救うことは同時に成り立つのだから。というか、逆なんだよね。あなたたちを救っても、DIOだけは絶対に殺さなきゃいけないっていう。
 そう言い返してやればいいだけだと思うのに、承太郎はそうできなかった。首元を掴んでいた手を振り払うようにして離すと、踵を返し部屋を出て行った。
 突き飛ばされた形になったマライヤは未だに笑っている。嫌悪しているのか楽しいのかは知らないが、仲間で、心が綺麗な承太郎に、ひどいこと言うのは許せないよね。ため息を吐いて、つかつかとマライヤの前に立ち、手を差し出した。きゅっと握り返された手を勢いよく引っ張れば、当然立ち上がる。その彼女に向かってわたしはいたって普通に、へらりと笑った。


「あなたの言う通り、わたしは自分勝手でひどい人間なので、あなたには酷いことをしますね」


 意味がわからないと言ったように眉を寄せたマライヤの耳元で、ぽつりと呟いてから承太郎を追いかけ部屋を出た。──大丈夫ですよ、言いたくなるようにして差し上げますから。
mae ato

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