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 さて問題です。承太郎はどこに行ったんでしょうか!
 承太郎を探しに部屋を出たはいいが、承太郎がいそうな場所は検討もつかない。ホテル内をうろうろしてみてもその姿は見つからなかった。考えなしな自分にため息を出て、急いても仕方がないと歩調を緩める。
 思い浮かぶのは承太郎のことばかりだ。マライヤに言われたことが、そんなに承太郎の心を抉るとは。身内を否定されただとか、仲間を殺されただとか、そういうことで怒ることはよくわかっていたつもりだった。だけど今回は承太郎自身のこと。自分でも矛盾している行為だと、とっくの前から気付いていたのだろう。だからちょっとしたことで爆発した。自覚していることを他人に言われるのは、嫌と言うほど堪える──あの場から逃げ出してしまいたくなるほどに。
 ……それにしても承太郎にあんなことを言われて腹が立ったからとはいえ、イキり散らした言い方をしてしまった。はい、黒歴史確定。おめでとう。ぼんやりとした言い回しで、まったく怖くないんだよなぁ。勝手に邪推して怯えてくれたりしないかな。しないよね。わたしならしません。

 いったんマライヤのこと忘れて、承太郎を探すことに専念する。上に行って下に行って、行けそうなところをすべて覗いたとしても、それでも見つかりはしない。そもそも、わたしが探しに行っていいのだろうか? わたしなら誰にも追いかけてきてほしくはない、けど、戻る機会が上手く見付からないから迎えに来てほしい。そんなわがままな悩みを抱える。しかし承太郎は後者のようなことは、考えない、と思う。自分ではっきりと意思を持ってる子だから、自分で解決して戻ってくる……そんなイメージを持つ。
 探しに来る必要なんかなかったかなあ、なんて考えているうちに、結局入り口まで来ていた。いないとは思うが外をぐるりと一周してから部屋に戻ろう。自動ドアを抜ければまぶしい日差し。目の奥がちりちりと焼けるような感覚に陥り、目を細める。右回りにホテルの外を回ることにした。


「ん?」


 足元に何か当たって拾い上げる。ネイルハンマー、というか片側が釘抜きができる金槌だった。某ホラーゲームで最強の武器と名高い、あの武器だ。いや、その考え方は根本的に間違っていて、実際のところ使い方としては工具なのだけれど。いや危ないが……? 誰だこんなところに忘れていったのは。どこかに届けようと念のために拾って、承太郎探しを再開する。
 ……そんなに簡単には見つからない。ため息をもう一度ついて、道を引き返すとその視線の先には承太郎がいた。


「あ」

「……、ナマエ」


 目が合った瞬間、少しばかり驚いた。明らかに思い悩んでいるような顔をして、とっさに顔を逸らされたからだ。あの“空条承太郎”からは、まるで想像もできないような反応。そう思うとなんだか申し訳ない気持ちになった。仲間の空条承太郎も大切だが、わたしはまだ原作に囚われている。けれどそのギャップを身に染みて実感したことで、自分がもっとしっかりしないといけないと思わせた。承太郎の近くまで歩み寄り、ぽんと軽く肩を叩く。


「中で、コーヒーでも飲まない?」


 にこりと笑ってそう言えば、承太郎は小さな声で、ああ、とだけ呟いた。見られたくないであろう顔を見ることはなく、右手で背中を押してホテルの入り口へと向かう。承太郎は少し俯いたまま、わたしの隣をゆっくりと歩き始めた。
mae ato

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