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 どう思う、その言葉の意味には、色んなものが含まれているように思えた。殺しについて聞いているようにも聞こえたし、承太郎自身について聞いているようにも聞こえたし、これからのことについて聞いているようにも聞こえた。あらゆる意味であるようで、そのどれについてでもないかのような。どう考えを伝えたものか。──いや、思いや考えを伝える必要など、本当はないのだけれど。結局のところ、答えは一つしかない。それを承太郎が如何に吹っ切れるか、ということなのだろうから。だけどそれは、それで承太郎に失礼になる、という気もする。卑怯な大人のもやもやとした気持ちを抱えながらも、わたしは口を開いた。


「まず、ンドゥールを助けたことだけど、逆に聞くよ。わたしがデーボやンドゥールを助けたのを、空条くんは偽善だと思う?」

「……思わねーよ」

「じゃあ空条くんがンドゥールを助けたことも偽善じゃないね」

「待て。それとこれとは」

「話が違う?」


 そう聞けば、承太郎は頷いた。気持ちはわかるけどね。わたしだって仲間内の誰かが同じ行動をしたら、解釈が違って見えて、なんて素敵な人だろうと思うだろう。でもわたしがやったことは実際、自己保身だ。それくらいに違って見えることなのだ。わたしのさらっとした言葉で納得できるわけがない。笑って、そしてまっすぐに承太郎を見つめた。


「一緒だよ。他人からの評価、人の命を救ったこと」

「仲間が言うのと敵が言うのとでは、まったく違ぇだろ」

「じゃあわたしだって偽善になるじゃない。違う?」

「……それでも、おれとお前がしたことは違う」

「じゃあそもそも空条くんは、彼女に言われたから気になっているんじゃなくて、空条くんが自分の行いを偽善だって思ってることが問題ってことだね。なら質問を変えようかな。ねえ、どうして偽善はダメなの?」


 承太郎は何を言ってるのかわからない、あるいはどう反応していいかわからないと言ったふうに眉をひそめた。しかし口を閉ざして考え始める。偽善とは何か。偽善はいけないことなのか。偽善と言われてどうして自分が怒ったのか。その答えが出る前に、わたしの考えを先に発してしまう。


「わたしは、だから何、って思うね。やりたいことをやってる。やるべきだからやってる。人に言われたからじゃない。善でありたいと思ってやってるわけでもない。空条くんもそうでしょ? 別にそれが正しいと思ったから、善だから為そうと思ったわけじゃなくて、ンドゥールに死んでほしくないと思ったからやったんじゃないかな。だったら。他人に偽善と言われようが、偽善であろうがなかろうが関係ないことじゃない?」

「だが、」

「空条くん、きみは、まっすぐ過ぎるね。それも、痛いほどに。まっすぐで正しいことは、美点だと思う。でもそれは一般論で理想で……今の現状とは違うもの。空条くんはその美点に、押し潰されてる気がするかな」


 最後に苦笑いでそう言い切れば、承太郎はただ押し黙った。原作から考えても三部以降、しっかりと自分の考えが固定されているがゆえに災難もあったと思う。揺るがない自分。それを固定したのはきっと、三部でのこと、まさに今だ。そして今回の場合は、その固定されたはずのものが揺れている。できることならついでにもっと柔軟な考えを持ってほしい。そうすればきっと、もっとうまいことやって、娘や奥さんと幸せに過ごす時間だってあったはずだ。彼には、幸せになってほしい。そう思うだけで、涙腺が刺激されるのは、わたしがただのジョジョ馬鹿だからだろうか。


「いいじゃない。偽善でも」


 絞り出した声に承太郎は頷くことも、返事をすることもなかったが、わたしもそれ以上は言葉を続けられなかった。このことについてわたしが言えるのはこんなことだけだ。これ以上言えることもないし、しなさいと強要するようなことでもない。命懸けの旅を一緒にいく仲間とは言えたった一月しか一緒にいない人間に、今までの人生で構成された考え方をそこまで変えるなんて、端から難しいことだろう。そんなことはわかっている。最後の決断は、承太郎にしか出来ないのだから。
mae ato

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