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 移ったホテルの部屋で、ごろんと真ん中のベッドに寝転がる。怪我のせいでシャワーは浴びれないので、洗面台でポルナレフに頭を洗ってもらい、身体は濡らしたタオルで垢擦りのごとく全力で拭いた。お風呂に入りたいと言う気持ちが強すぎて身体が痛くなるほど擦ってしまったわたしは百パーセント馬鹿だ。傷の手当てをし直して鎮痛剤を飲み、そのまま寝てしまおうとベッドに潜り込んだのはいいが、生憎眠気はどこかに旅立ってしまったあとだった。

 左のベッドではポルナレフがいびきをかいて寝ているし、右のベッドでは承太郎が寝息も立てずに寝ているようだった。もしかしたら寝ていないのかもしれないと声をかけてみても、承太郎はぴくりとも反応しなかった。仕方なく起き上がり、自分の荷物をひっくり返して、紙とペンでこれからのことについて考える。勿論文字は日本語で書いたら見られたときに困るので、平仮名を簡単な数字に対応させてぱっと見ではわからなくしておく。少し考えればわかる程度だが、どうせただのメモ書きに過ぎないし、その前に燃やしてしまえばいい。
 次に来る敵は誰だったか。忘れかけている記憶を無理矢理引っ張り出して、メモを取っていく。……アレッシー、影と影を重ねると重なった時間分、身体だけでなく記憶も幼児化する、んだったかな。あとは、ダニエル・ダービー、ホル・ホースとボインゴ、ペット・ショップ、テレンス、ケニーG、ヴァニラ、ヌケサク、そして……DIO。

 いつの間にか様付けをしなくなっていたラスボスの存在に、頭を痛めた。勝てると知っているのに、掌にじっとりと嫌な汗をかいている。勝ち方が勝ち方だから、尚更だろう。仲間の半分が死ぬ……だというのにわたしはスタンドがなければ、まるで底辺以下で、基礎体力もなければ戦う術も力も頭も持っていない。スタンドが、ヴィトがいるとは言え、わたしが……DIOやヴァニラと対峙できるのだろうか? 対峙は必須だ。対峙しなければここまで着いてきた意味がまるでない。アヴドゥルと、イギーと、花京院と……彼らを助けるためには、どうしたって、対峙せねばならない。けれど、わたしの今の、力では……。


「……やめよう」


 嫌な考えを振り払いたくて、メモを荷物の中にしまい、承太郎のズボンの左ポケットから煙草を一本拝借した。窓をからからと開き、窓の枠に腰かけて煙草に火をつけた。煙草をくわえ、ゆらゆらと揺れる煙を見ながら、思考をすべて遮断。肺を占領した煙が血管を使って、ゆっくりと体内へ巡っていった。
mae ato

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