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 DIOの館を知るという男、ダービーにポルナレフとじじいが続けざまにやられてしまった。油断していたわけではないが……いや、油断していたのだろう。今までとは完全に違うタイプの戦い方を予想していなかったおれたちは、結果、こんなことになってしまった。ギャンブルというものであれば、例え相手が仕掛けてきたものでさえ、気付かぬうちに自分の手中へ納めてしまう男。それがじじいのような手馴れた相手だとしてもだ。心底、恐ろしい男だと思う。先ほどまでのイカサマを、卑怯だなんだと言うつもりはない。気がつかない方が愚かであるという男の言葉を否定することはできない。あくなきまでの、勝利への執着。それを、超えねばならない。
 アヴドゥルは今までの激昂しやすい性格から考えて、ギャンブル自体が向かない。おそらく、素直すぎるのだ。偽ると言うことを知らない。それではこの男には勝ちようがなかった。


「なら、次はわたしです」


 ナマエが緊張した顔で、そう言った。……ナマエはカードゲームがうまい。だが、この男相手にやり合えるほどだとは思えない。それでもアヴドゥルよりはずっといいはずだ。次にやるべきはおれだと思っていたが、おれが先にやられて、アヴドゥルとナマエだけでやり合うよりは、おれがアシストしてやれる可能性がある分、今の状況の方がまだマシのように思えた。


「ほう、お嬢さんが?」


 ダービーがそう言って笑みを作る。相手はナマエ。幼いと言っても過言でない容姿と傷だらけの身体……舐められるような外見をしていることはたしかだ。けれど男は決して油断しているわけではない。ナマエの声が緊張で震えていても、油断してくれるような相手ではないのだ。ナマエは笑みを作った。すこし、顔が強張っているように見えた。それを誤魔化しているような、そんな顔だ。


「そうです。殴り合いでないのなら、怪我をしているわたしにも勝機があると思いました」

「……そうか。じゃあ何で対戦するかね?」

「えーと……どうしましょう。…………その、何かいい案あります?」


 ナマエは考えていなかったとばかりに、誤魔化すような笑顔を作った。相手に主導権を譲るような立ち回りである。普通であるならば自分の知っているものや、自分の得意なものにしたがるはずだ。ギャンブラーだって言うのなら、相手だってカードは得意だろうが、それでもナマエは得意なジャンルである。それをどうして相手に譲る? しかも相手は普通じゃあない、絶対に何か仕掛けてくるに決まっている。自分に優位なものを言えばいいのに、どうして、ナマエはそんなことをした? ……待て。ナマエだってそんなことはわかっている。意図的に隠している? 何か、必勝の手があるのか……?
 どうにか口を閉じる。落ち着かなければ。必勝の手があるようには見えないが、おれが不安になることでナマエに不利になることだけは避けなければならない。


「ならば、ポーカーで勝負としようか」


 もっとも、わたしの一番得意なゲームだがね。あくどい笑みを浮かべ、そう言ってみせたダービーは椅子に座りながら用意していたカードをテーブルの上に置く。カードにはセキュリティーシールが貼ってあった。トランプはギャンブルや手品などに多く使われるため、まだ誰も開けていないという販売元が保証するものだ。ナマエも席に着き、シールを破るとおぼつかない手つきで中身を確認する。やはり怪我が響いているようでうまくカードを扱えていない。


「じょ、承太郎……」

「……なんだ、アヴドゥル」

「ナマエは……大丈夫なのか? ダービーの得意なカードゲームだぞ?」

「……ナマエもそれなりにはできる」


 そのはずだ。以前ホテルで罰ゲームありのポーカーをやったことを思い出した。別におれ自身、ポーカーが弱いということはないのに、ナマエには結局一度だって勝てなかった。ついでにやらされた罰ゲームも思い出してしまったが、忘れることにする。
 不安があるとすればまともにカードすら切れないような肩の怪我のことだが、始めてしまったからには止められない。代わると言いたくてもおれは未だ勝つ術を見つけ出しているわけではないのだ。だからおれたちにできることは、ダービーのイカサマを見つけて指摘することくらいである。
 確認し終わったナマエがどうにかカードを纏めてダービーに返す。それを受け取り、ダービーは問うた。


「さて、例の言葉を言ってもらえるかね、お嬢さん?」

mae ato

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