04
 ポルナレフはすごくいい人なんだろうと素直に思えた。別にこんな訳のわからない女、放っておいたって、誰も文句を言わないし、責めたりもしない。寧ろわたしのことを頭がおかしい、と糾弾してもいいはずだ。されたって文句を言うつもりはない。実際にわたしが気づいていないだけで頭がおかしくなっていて、そう思い込んでいるだけかもしれないのだ。
 それなのに彼は、自らわたしというお荷物を背負い込んだ。なんてお人好しなのだろう。ありがたいけれど、わたしという面倒ごとを背負い込ませて申し訳なくなる。


「そうと決まれば……よっし。ナマエちゃんに仲間を紹介するぜ!」

「仲間、ですか?」


 仲間とくればもちろん、ジョースター一行のことだろう。ちょっと待ってほしい。今、ポルナレフに会っていて平静なのは、ポルナレフが一人であったことと、それどころではない混乱した状況だったからだ。すこし落ち着いた状況である今、わたしはまだ心の準備が出来ていない。今からあの人たちに会うと思っただけで、心臓破裂しそうで、具合が悪くなってくる。
 青春時代に憧れたジョースター一行に会える日が来ると思っていたか。否である。
 わたしが緊張していると、朗らかにポルナレフが笑って、がしがしとわたしの頭を乱暴に撫でた。


「大丈夫だって! 皆ちょっとばかり我が強ェーけど、いいやつらだからよ」


 ごめん、ポルナレフ。多分あなたが心配してくれているような緊張感ではない。会いたいけど、会いたくない。ウッ、やべ、吐き気がしてきた。緊張すると気持ち悪くなるよね。ごめんやっぱ会いたくないかも。緊張で吐きたくないし!?
 そんなふうに頭の中がごちゃごちゃになっていると、破裂音を立ててドアが吹き飛んで来た。そのドアは、直線上に座っていたわたしの後頭部に向かって、まっすぐ、すこしのズレもなく。
 これは生命の危機だった。ただの大学生でしかないわたしが、到底避けようもない、生命の危機。ポルナレフがわたしを庇うように抱き締めて、チャリオッツを出したのがわかったのは、もうとっくに危機を感じてしまった、そのあとだった。
 ただの大学生てしかなかったわたしが後ろを向いていてもドアが飛んできたのがわかったのは、危険に反応してヴィトが現れてしまったからだ。既にわたしのスタンドは発動してしまっている。もうヴィトは止まらない。ヴィトはわたしに当たるギリギリのところで、鉄のドアを押し留めた。破裂するような笑い声が響き渡っている。


「ヴィト! もういいから! やめて!」


 流れ込んでくるドロリと粘りのある感情を、無理矢理に声で制すると、ヴィトは不満をぶつけるように奇声を上げて喚き、そして消える。鉄の扉がすごい音で落下して、しん、とした空気があった。振り向くことはできない。顔をあげることもできない。身体が震えないように押さえ込むので精一杯だった。ポルナレフも固まったまま動かない。
 わたしのスタンドは、大層気色悪いものだろう。声と言えない音が喚き、カタカタと歯が鳴り、形状も嫌悪を感じるだろう。嫌われちゃったかな、でも、仕方ないね、気持ち悪いもの。知ってるよ。大丈夫。怖がられるのは今更じゃない。知らない人に何を言われたって平気。憧れてた彼らに言われても平気。だって彼らはキャラじゃないもの、人だもの。関係ない。友達でもない。友達は。友達も。


「ポルナレフ、どういうことだ。その女は、敵じゃあねーのか?」


 ポルナレフを責める厳しい口調。この声は、アニメで聞いたものとは少し違っているなぁ、なんて考えも現実逃避にはならない。キャラじゃなくて人だって、友達じゃなくて他人だって、そんなの知らない人だって思ってもやっぱり原作を思い出して勝手に傷付くのだ。あーあ、ほんっと、嫌になっちゃうなあ。
mae ato

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