07
「もういいんじゃないかね」


 ぱんぱん、と手を叩いてジョセフがこの張りつめた空気を壊した。にっこり笑ったジョセフは、さっきわたしを問い詰めようとした人物と同一人物には見えないほど、好々爺に見える。それよりも首にぶらぶらとぶら下がっているヴィトが鬱陶しかった。そう思っただけで、ヴィトがまるで漫画のようにガーンと口を開いて見つめてくる。
 おぞましい見た目、気持ち悪い見た目、嫌悪を感じる見た目。良い気分を感じることはないだろう。しかしわたしは、そうであることは分かっても、そう思うことはない。愛らしく見えるのだから、自分のスタンドに対して補正がかかっているのかもしれないかなあ、なんて。
 傷付くんだよなあ、過激だけどこんなに可愛い子なんだよ。でも他の人から見たら気持ち悪いだなんて。でもいいの。関係ないよ、他人からの評価なんて。だって他人だもの。わたしはわたしだけでも愛してあげるからね。
 落ち込んでいたヴィトの頭をわっしゃわっしゃと雑に撫でる。髪の毛があるわけではないので撫でた気にはならないが、それでもヴィトが嬉しそうなので良しとする。


「ナマエちゃん、と言ったかね。君は敵じゃあないだろう。孫がいきなりあんなことして悪かった」

「じじい」

「承太郎も謝れ。突然女の子にあんなことしおって!」

「てめーも止めなかっただろうが」

「なんじゃと!」

「まあまあ、ジョースターさんも承太郎も落ち着いて」


 最早わたしへの謝罪などどこかへいって喧嘩が始まりそうなジョセフと承太郎を、アヴドゥルが止めに入る。ていうか、そんなところで喋ってないで中に入ってくればいいのに。いや、やっぱりそれ以上中に入ってこないでほしい。さっきまでそれどころではなかったが、彼らはジョースター一行である。当然のように緊張しちゃうって!


「つーか花京院てめーいい加減に離しやがれッ!」


 ハイエロファントの触手プレイ続行中だったポルナレフが、花京院に怒鳴り散らす。花京院は、ああ、忘れてました、と言わんばかりの表情で、ハイエロファントグリーンからポルナレフを解放する。
 プンプン、と可愛らしく怒るポルナレフは、わたしの後ろからがばりと抱き着くと、更に怒りを露にした。うわ、胸筋すごい! 仗助の比じゃないぞこれは! これが戦う人間の胸筋なんですね。ありがとう神様。初めて知りました。


「だァーから言ったろ! ナマエちゃんは敵じゃねえってよ!」

「言ってねーな。大体てめーがそいつの怪しさを濃くさせたんだろうが」


 直ぐ様反論されてしまうポルナレフは哀れだったが、それもまた事実であったので彼は大人しく黙ってしまう。 別にわたしは気にしてないから良いのに。人が良いんだなぁとぼんやりしていると、ジョセフがわたしを見てきた。先ほどまでの嫌な空気は全くなく、人の良さそうな感じが、逆に少し怖かった。


「それで、ナマエちゃんはどうしてここに?」


 その問いに率先して答えたのは、わたしではなくポルナレフだった。突然現れたこと、エボニーデビルから助けたこと、そしてわたしの話した露伴ちゃんの家に居候していたこと。多分、わたしの家や戸籍がないであろうこともだ。わたしからしてみれば、この世界に家があっても困る。こんな状態ではどうせ帰れやしないのだから。
 話を聞いたジョセフはとても驚きはしたものの、もう疑うことはしないようで、ふむ、と顎に手を当てた。疑った方がいいと思う。正直、本人のわたしでも何こいつすごい怪しい、って思うから。だからせめて裏を取って、わたしの戸籍がないことを確認してほしい。するかな、さすがに。主人公組とはいえ、彼らは腑抜けたことはしないし、性善説だけでは動かない。そうであってほしい。もし性善説信仰者だったらかなり危ないし。


「ならば、ナマエちゃんに折り入ってお願いしたいことがある」

「……と、言いますと」


 わたしを覗き込むように見たジョセフは、少しだけすまなそうな顔をしていた。そして次に出たジョセフの言葉に、ひどく驚かざるを得なかった。


「わしらは、スタンド使いのDIOという男を探す旅をしておる。危険な旅じゃが、強いスタンド使いがいると心強い。わしらと一緒に来てはくれんか?」

mae ato

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