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 じじいにデーボの捜索を任されたおれたちは、動きを止められているはずの男を運ぶことと顔を知っているのが二人しかいないということで、二人ずつで捜索することにした。おれとポルナレフは、花京院とアヴドゥルとわかれ、任された範囲であるホテル内の九階以上を片っ端から探していく。十分ほど探して見つからなければ一度引き上げて部屋に戻ることにしているが、果たしてそれで見つかるのだろうか。


「これってよぉ、花京院のハイエロファントが一番探しやすくねーか?」


 おれたち、他の部屋までは見れねーよなあ、などとポルナレフが文句を言った。ポルナレフの言葉は事実なので、確かにな、と頷いておく。とりあえず廊下とトイレ、階段などを見ていくが、どこにもそんな人間はいない。そもそも傷だらけの人間は、目立つような場所にいないのが普通だろう。人気のある場所にいれば、どうしたって目立ってしまうのだから。十三階まで調べた時点で、時計が十分経っていることがわかり二人でため息をついた。


「あー、一回戻るか」

「そうだな、何の手がかりもねーし」


 あ〜あ、足痛ェーよ、とポルナレフがため息を吐く。だからと言って歩き方には痛みを全く感じさせず、少しだけ感心した。
 九階まで戻って来ると、SPW財団の人間がブルーシートを被せた何かを運んでいるのに遭遇し、じじいが呼んだのだろうと目線を向ける。SPW財団のやつらもこちらに気付くと、頭を軽く下げて非常階段から降りていった。 ポルナレフはそれをなんとも言えない、といった表情で見詰めていた。


「どうかしたのか」

「いや……なんでもねぇ。さっさと戻ろうぜ」


 なんでもないという表情ではなかったが、本人が言いたくないと意思を表しているのにわざわざ聞くこともないだろうと、912号室へと向かった。ドアのない部屋へと足を踏み入れると、慌てている女──ミョウジと、そのミョウジの頭を撫でているうちのじじいだった。花京院とアヴドゥルは、まだ戻って来ていないようだ。じじいたちはおれたちに気付かない。ロリコンじじいめ、と心中で悪態をつきながら、壁をノックした。それでようやくじじいが振り返る。


「じじい、そいつに手を出したら犯罪じゃねーのか」


 自分の孫より年下の女は、最早女と言うよりは少女や子どもに近いはず。犯罪だと言ってやるとじじいの表情が、手なんか出すか! とばかりに憤慨した表情へと変わっていく。 しかし、じじいがそれを口に出すよりも早くポルナレフがずかずかと部屋の中に入っていった。


「ジョースターさんばっかりナマエちゃんに構ってずりぃぜ!」

「ポルナレフ……、お前のう」


 そんな考えばっかりだと飽きれ気味のじじいの視線に、気が付いているのかいないのか、ポルナレフはその空気をぶっ壊してじじいとミョウジとの間に入った。こちらから見ることはできないが、どうせポルナレフのことだ、多分、楽しそうに笑っているのだろう。女が絡むと途端に調子のいい人間になる。……いや、女が絡まなくともポルナレフが調子のいい人間には変わるまい。


「ナマエちゃん、ジョースターさんに変なことされなかったか?」

「ポルナレフ、お前までそんなことを言うか」

「大丈夫です。足の手当てをしていただきました」


 くすくすと楽しそうに笑うミョウジはどこか大人びているように見えた。花京院も同年代特有の煩わしさがなく大人びているから、あるいはスタンド使いには多いタイプなのかもしれない。それだけ苦労をしてきた、とも言えるのだろう。数ヶ月前の自分が悩まされたように、きっと彼らも思うところがあったに違いないからだ。
 どうでもよい思考を頭の片隅に放り投げて、意識を現実に引き戻す。ミョウジの手当て、という言葉に足を見ると、包帯が綺麗に巻かれていた。怪我をしていたのか、とにわかに驚いたのはおれだけではなくポルナレフもだったようで、心配そうに声をかけている。それに対してもミョウジは笑顔を作っていた。


「大丈夫です。ご心配ありがとうございます。それよりポルナレフさんの怪我の方がひどいのでは?」

「げ。忘れてた」

「忘れるくらいなら問題ないかもしれませんが、手当てした方がいいですよ」


 会話をしているうちにいつの間にか心配をする立場が入れ替わっていた。仲間になったばかりだというのに、よくそこまで他人を心配できるものだ。それを不自然さと感じてしまうのは、おれがまだどこかでミョウジを疑っているからだろうか。
 ポルナレフはミョウジに言われた通り手当てを始めたが、その手つきはお世辞にも器用とは言えない。どう見たって不器用すぎる。よく今まで一人で旅をして来れたな、と逆に感心してしまう。


「ポ、ポルナレフさん、手当て、わたしがしましょうか?」


 あまりにも手際の酷いポルナレフに、ミョウジがおずおずと声をかける。ポルナレフはよくわかっていないながらも、やってもらえるに越したことはないと頷いた。ミョウジはSPW財団のロゴが入ったバックから靴を取り出すと、それを履いてベッドに腰かけていたポルナレフの元まで向かう。
 ポルナレフとは違い、ミョウジの手つきは素晴らしく的確で無駄のないものだった。
ただ怪我を見慣れてはいないのか、結構な出血に眉を寄せていた。


「ジョースターさん、承太郎」


 不意に後ろから声がかかる。振り返るとアヴドゥルと花京院──そして初めて見る傷だらけの男、呪いのデーボが二人に抱えられていた。
mae ato

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