「こいつが、呪いのデーボ」
承太郎たちと別れたあと、八階からデーボを捜索していると、六階のトイレにて呪いのデーボを見付けた。一目見た呪いのデーボは、ひどく痛々しい傷をいくつも負ったインディアンのように見える。しかし哀れさや痛みを感じさせず、その外見には威圧された。この世のすべてを恨んでいるかのような憎しみに満ちた眼球が、動くことなくこちらを見ている。ポルナレフに攻撃されたのか、左の眼球は潰れているようだ。
アヴドゥルさんがぼくの言葉に頷いて、この男を九階まで運ぶことにした。しかしながら怪我を負った男を部屋まで連れ帰るというのは、誰かに見られてしまうのではないかとぼくに不要なプレッシャーを与えてくる。なるべく人に会わぬよう、非常階段を使っていると、上から誰かが降りてくるのがわかり、思わず身構える。しかし降りてきたのはSPW財団の人間で、挨拶をするだけして去っていった。ジョースターさんに呼び出されたのだろう、あそこには死体があったから。
ミョウジさんがいなければ、ああなっていたのはぼくかもしれないと思ってゾッとした。……あとで承太郎が攻撃するときに手伝ったことを謝っておこう。ミョウジさんには絶対に嫌な思いをさせたはずだ。そんな思いのまま部屋に着くと承太郎が、ドアの付近に立っていた。デーボを見て、一瞬だけ顔を顰めた。
「そいつが呪いのデーボか。……ひでぇ怪我だな」
「多分、チャリオッツの攻撃を受けたんだろう。ちょっと道を空けてくれるかい」
「ああ……悪い」
部屋に入ると、ミョウジさんがポルナレフの手当てをし終わったところらしい。椅子が空いていたので、座った体制のままだったデーボを座らせた。ポルナレフが苦い顔をして、ミョウジさんが口元を押さえて顔をしかめた。ジョースターさんは興味ありげにデーボを観察している。
「ナマエちゃん、能力を解除することは出来るかね」
「……はい」
「ジョ、ジョースターさん! 解除するのは危険じゃねーのか!?」
ポルナレフがジョースターさんの行動に、慌てて反論する。ぼくも危ないのではないかと思ったが、デーボは怪我も酷いし、エボニーデビルは“呪い”という形態を取らないと力はほとんどないと話に聞いている。アヴドゥルさんが何か言うなら別だが、こういうときは経験のあるジョースターさんの考えに従おうと、黙っておくことにした。
「心配には及ばん。これだけの敵に囲まれて攻撃をけしかけるほど、デーボも無鉄砲ではないじゃろう。わしらから攻撃を仕掛けなければ問題はない」
「……ジョースターさんがそう言うならいいけどよぉ」
「念のため、承太郎とアヴドゥルはもう少しデーボに近付いておいてくれ」
「わかった」
アヴドゥルさんもわかりました、とジョースターさんに同意をすると、ミョウジさんに目線が向けられる。少し居心地が悪そうにしながらも頷くと、ヴィト、と呼ばれていたスタンドが、ふらりとミョウジさんを離れ、デーボの眼前で彼のことを見詰めていた。ヴィトにはこちらを見る目なんてないのに、強烈な視線をぶつけている。
「ヴィト、解除してくれる?」
「……82ED82A982C182BD」
ヴィトがぱしっとデーボの身体を叩くと、魔法でも解けたかのように、デーボの身体が動き始めた。ぎらりとした視線は、初めて見た時に感じたものよりも数段恐ろしい。ぼたぼたとこぼれ始めた血液が、彼の服と椅子を汚し始めた。その様を見ながらも、ジョースターさんは気後れした様子もなくまっすぐにデーボを見て言葉を発した。
「デーボ、いくつかお前さんに聞きたいことがある」
ジョースターさんの冷静な声だけが、部屋に響いた。デーボは薄暗い無感情な目線をゆっくりとジョースターさんに向けて、それから愉快そうに笑みを作った。傷口が皺を作り血が落ちていった。喉からは掠れた声が漏れて、こぼれた。
「甘ぇんだよ、てめーら」
直後、デーボは穴ができて欠けた舌を出して、これ以上にないほど大きく口を開いた。何をするつもりかわからなかったぼくとは違い、ジョースターさんは驚いたように目を見開く。白い歯が、勢いよく閉じていく。ぶつ、と皮膚と肉の裂けた嫌な音がした。
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