中学生にしか見えないような容姿であるというのに、中学生とは思えない嫌味の応酬でポルナレフを圧倒したミョウジさんは、さっきまで自分より年下だと確信していたのに、何というか、母親みたいだった。悪いことをしたこどもを叱りつけているようにしか見えない。いや、あんなにきつい言葉を向ける母親はいないだろうけれど、なんとなく、そう思ってしまった。
情けないポルナレフの姿を見て、アヴドゥルさんは実にはっきりとしたため息をついた。そうしてポルナレフを律する。
「今のはポルナレフが悪いぞ」
「んだと、アヴドゥル!」
「謝っておきながらも反論するということは悪いと思ってないということですね。心のこもっていない謝罪を聞いていたなんて、とても悲しいです」
「いや、おれが悪いです。はい。ナマエちゃん、その……怒ってる?」
「いえ、別に怒ってません。慣れてますし」
怒っていないのにあそこまで嫌味を浴びせたというのが逆に怖かったが、怒るまではいかなくともイラついたという言葉の裏を感じ取った気がした。それに実際ミョウジさんは先ほどのように意味深な笑みを見せたりもせず、普通にけろりとしているので多分、本当に怒っていないのだろう。ぼくは母親の影がちらついて、ミョウジさんの笑顔が結構怖かった。ごほん、とジョースターさんの咳払いで、皆が視線をそちらに向ける。
「ナマエちゃんが二十歳ということは、よーくわかった。とりあえず、この部屋に泊まったポルナレフは移動。問題は、」
「別に大丈夫ですよ」
へ? そんな言葉と共に振り返ると、ミョウジさんがにっこりと笑っていた。さっきポルナレフを言いくるめたときとは少し違った笑みだけれど、あ、なんだかちょっと嫌な予感。
「別に何も起きやしませんよ」
「いや、でもそういうわけにはいかんじゃろう」
「だって皆さんもわたしを十四、五歳だと思っていたんですよね? そんな風に見えるわたしに手を出すなんてあり得ません。あり得たのならば、そりゃあ変態です。ペドフィリアです。ロリータコンプレックスです。社会的に生きられなくなりますね!」
……この人たぶんすっごい根に持ってる。すごく嬉しそうなミョウジさんを見て、そう思った。ポルナレフは皆からの目線が集中して、いたたまれない思いをしているのだろうが、正直いい気味だ。これから先、ミョウジさんと一緒になったときに、誰が何を言われるかわかったものではない。
「ま、そんな冗談はさておき」
ミョウジさん、絶対冗談じゃなかった。そんなぼくの目線も気にせずに、ミョウジさんはジョースターさんの方へと向き直した。その目は至極真面目でなんとなくぼくの背筋をぴんとさせた。中学生ができるような目ではないのだ。やっぱり顔は、中学生のような幼さを残している気がするけれど。
「現実問題として使わないで済むお金は使わない方がいいでしょう。ストレスが溜まって一人になりたいときは別としても、この旅の間は誰だろうと一人にならずに済むのならその方がいいのではないですか?」
それにわたしは今怪我をしていますしね、と今度は成人済みは伊達じゃない真っ当な提案。それはそうだ、とジョースターさんもすまなそうに、疲れたように頷いた。ミョウジさんの言葉は心臓に悪いから、ジョースターさんの寿命はガリガリと削られてしまったのかもしれない。
それからジョースターさんは椅子に座り込み、全員が集まっているのでこれからのことを決めることにした。幸いにもミョウジさんは抜糸を旅の先の病院でやれば問題ないとのことで、車椅子で行けばいいことになっている。
とりあえず列車のチケットを買い、インドの方へ向かうのが安全らしい。ならば善は急げということで、このあとぼくと承太郎は明日分のチケットを買いにいき、ジョースターさんとポルナレフが待機、ミョウジさんとアヴドゥルさんは病院に傷の状態の確認とデーボのお見舞いにいくことになった。
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