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 寂しくないように面会時間ギリギリまでいてあげるからね、なんて言ったらがつんと頭に拳を降り下ろされた。結構、痛い。
 そんなことをされてもツンデレに違いないと決めつけて、アヴドゥルに買ってきてもらったお昼も病室で食べ、本当に面会時間のギリギリまでいたらさすがに看護婦さんにどやされた。英語らしき言葉だったので何を言っているかはわからなかったが、笑顔で怒っていたということだけはよくわかった。ごめんなさい……。
 それからデーボの連絡先をもらって、ホテルに戻ることになった。病院を出るときにアヴドゥルにお礼を言っていると、汗だくの花京院が走ってきた。


「花京院!? どうしたんだ一体」

「……アヴドゥルさんに、ミョウジさん。実は、一緒に行くはずだった承太郎の姿が、朝から見えなくて……」

「承太郎が?」

「先に行ってしまったんだろうと思ってあちこち探したんですが、まだ見つからなかったんです……もしかして敵に襲われているんじゃないかと」


 どうやら承太郎がイエテンと戦っている間、花京院は必死にいなかった承太郎を探していたらしい。しかも見知らぬ土地で一人。普通の人にはできないことだ。彼は、なんていい子なんだろう。わたしなんてイエテン戦の事なんてすっかり忘れ、クーラーの効く病室で、昼寝までしていたというのに。
 ふと花京院が顔を上げて、すこし目を大きくさせた。わたしが振り返ってもアヴドゥルさんがいて見えないのでまったく意味がないのだが、反射的にわたしも振り返ってしまう。


「承太郎!」

「……花京院、アヴドゥル……と、ナマエか」

「! 怪我をしているのかい?」

「ああ、だが大したことはねえ。……デーボの言っていた“節制”のやつだったぜ。花京院、てめーに化けていた」

「ぼくに!? ……そうか、それで君は先に行ってしまったんだね。お疲れ、ひとまずは無事で何よりだよ」


 イエテンとの戦いで出来た傷は、確か手の横が食われのではなかっただろうか? 全身も覆われはしたけれど食われてはないはずだから、一見すればそんなに大怪我でもないはずだ。まあ、車椅子に座っているわたしからは彼の身長もあり、うまく見えないけれど。
 ちょこん、と承太郎の後ろに少女の姿があった。あ、もしや家出少女? 思わず見つめてしまう。家出少女もわたしをじっと見てきた。わー、可愛い。外国の子どもって日本人の子どもとはまた違う可愛さがあるものなあ。いいな、彼女ってば本当に可愛い。…………待ってほしい。気が付いてしまった。もしかしなくても、承太郎の、子ども時代……めちゃくちゃ可愛いんじゃない!? ……旅が終わったらわたし、ホリィさんに取り入ろうと思います。アルバムが見たい。あわよくば写真を貰いたい。コピーでも可。
 そんなふうに意気込んでいたわたしに、家出少女は何かを英語で言った。もちろん、わからない! わはは! わたしの英語力は中学生で終わっているんだよなぁ〜〜!!
 脳内ではそんなふうに元気だが、家出少女が何言っているかわからないので、現実ではわたしはどうしたらいいかわからずに困惑した視線をアヴドゥルさんに向けることくらいしかできない。しかしわたしの反応を待つことなく、少女は興味無さそうに承太郎の後ろへと下がって行った。なんだこいつ英語わかんねーんじゃんってこと? わかんねーが?


「あー、ナマエ、気にすることはない」

「え、わたし、何言われたんですか?」


 フォローを入れてくれたアヴドゥルが押し黙ってしまった。え……本当にわたし何を言われたの? けれど周りは苦笑いのまま言葉を発しようとはしない。ただし、承太郎のやれやれだぜ、は聞こえた。ということは本当によくないこと言われたの? ええ? 初対面なのに? ……いやでも、わたしも初対面のデーボにとんでもないこと言ったもんね。わたしから言えることは何もない。
 そんな空気にバタバタとした足音がホテルの方から聞こえる。見てみればポルナレフとジョセフが走ってきていた。どうやら承太郎は二人に連絡を入れていたようだ。


「承太郎ッ、」


 いきなりポルナレフが承太郎の肩をがっしりと掴みかかった。それもかなり、切羽詰まったような表情をしていて、ただ事でないことだけは誰にでも簡単にわかる。“原作”なんて恐ろしいものを知っているわたしなら、尚更に。
 ──ああ、もうJ・ガイルなのか。
mae ato

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