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 朝起きると隣のベッドではポルナレフが盛大ないびきをかいて眠っていた。……うわあ、うるさい。なんという安眠妨害。もう一度寝ようかと思っても、既に眠気の覚めた頭は寝てはくれない。
 仕方なくベッドから這い出て、極力足の裏に力を入れないようにしながら、開いたままの車椅子に乗り込んだ。ポルナレフがずぼらでよかった。左手で左の車輪、右の車輪、と交互に回しながら、洗面所まで行き顔を洗った。少し大変だったがトイレも身体を拭くのも済ませ、SPW財団が用意してくれた服に着替えようと袋を開いた。替えの下着と共に入っていたのは、


「おーまいがっ……」


 用意してもらってなんだが、なんで、セーラー服なんですか。黒と白がシックで素敵なセーラー服。濃紅のスカーフとあっててすごい可愛いよ。でもわたし二十歳だって言いましたよね。知られているのにこの格好というのは地味に精神的なダメージを与えてくる。いや、着ますよ。着ます。着ますけれども……。
 来た姿は鏡が見えないので確認できないが、いい加減もう無理だって気づこう? 杜王で通ってたときも思ったけど、結構無理があると思うんだよなぁ……。
 遠い目をしていると、コンコン、とノックが鳴った。びくりと肩が跳ねる。


「おれだ」


 俺俺詐欺か? という伝わりもしないボケはしないことにしておいて、声で承太郎だということはわかっていたのでドアを開けに行く。左手で交互にやるのでどうしても時間はかかってしまったがらどうにか鍵を開ける。承太郎は一瞬顔をしかめたあと、下に視線を下ろしてきた。ちょっとした沈黙。さあ! セーラー服にツッコミをいれて!


「……ポルナレフは?」

「寝てます」

「お前、どうやって車椅子を?」


 わたしの期待も空しく、承太郎はセーラー服にツッコミをいれることはなかった。わたしが聞かれたことを実践してやると、承太郎は深いため息をついた。それからずかずかと部屋に入っていき、ポルナレフの頭をゴツンと思いきり殴った。しかし起きる気配はない。なんという強者。旅をしていてこの寝入りの深さは危険では?
 ある種の感動を覚えつつ二人を見守っていると、承太郎はスタープラチナを出してベッドごとひっくり返した。そのとんでもない行動に驚く。ゴトッとポルナレフが床に叩きつけられ、それでようやく目を覚ました。


「いって! ……朝飯か?」


 なんとのんきなポルナレフ! 承太郎がため息をつきたくなる気持ちもよくわかる。もしかしてこれが毎日なんだろうか。いやでもまさか、寝ている間に襲われるかもしれないことを考えたら、そんなことをしてられるわけがないと思うのだが、ポルナレフならしそうで怖い。


「さっさと風呂入って着替えろ。あと三十分で出発するぞ」

「はあ〜!? マジかよッ!」


 はっきり覚醒したらしいポルナレフは、うるさく物音を立てながら風呂場へと直行していった。しかしながら風呂に入るために必要なものを忘れたらしく、すぐ部屋に戻ってきて荷物を荒し始めた。少しは落ち着けばいいと思う。
 承太郎はため息をつくことすら嫌になったとばかりにこっちを見た。


「準備、終わってるか?」

「はい。荷物もまとめてあります」

「先にじじいの部屋に行くとするか」


 荷物をわたしの膝に乗せると、承太郎はポルナレフに一言かけてから車椅子を押して部屋を出た。……やはり二人、というのは緊張する。花京院は結構気さくだったり、アヴドゥルさんはお父さんっぽかったり、ジョセフはおじいちゃんという感じだが、承太郎はあんまりしゃべってくるタイプではない上に表情が硬いのでやっぱり緊張してしまう。実際友達とかにはいないタイプだよね……。
 プラスアルファとして、イケメンだから緊張するというのないわけではないが、仗助で多少イケメンには免疫ができている。ちょっと系統が違うイケメンとはいえ、承太郎は顔を近づけてきたりしないしね。そう考えると仗助ってめちゃくちゃフレンドリーじゃない?


「おい」

「はい!?」


 一人で考え事に没頭していたせいで突然かけられた声にビビってしまった。怒られるのは、いくつになっても嫌なものである。慌てて見上げると、無表情で承太郎が見下ろしていた。


「速くねえか」

「……へ?」

「車椅子を押すの、速くねえかって聞いたんだ」


 どうやら怒っていたわけではないらしい。勝手に怒っていると判断してしまって申し訳ない。そんなことを聞いてくれるなんて、やっぱり承太郎ってば良い子なんだな。
 笑いながら大丈夫だと、それからありがとうだと告げた。承太郎の返事はおう、と一言だった。スムーズな対応を聞いて、親切にするの慣れてるなあと感じた。よく考えなくても彼は育ちのいいお坊ちゃんで、家族も善性って感じだ。なるべくしてこう育ったんだなぁとすごく納得してしまった。
mae ato

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