ジョセフの部屋に着くと、他の皆は既に集まっていた。しびれを切らしてポルナレフを迎えに来たということなのだろう。わたしが起きていなかったらもしかして、初対面のときのように扉をぶち壊して入ったのだろうか。……それはいかがなものかと思う反面、じゃあどうするかというと……スペアキーを持ってきてもらってる場合ではないし、まあ、仕方ないのかな。
「ナマエちゃん、おはよう」
「おはようございます」
「制服、よーく似合っておるよ。可愛いぞ!」
「……あ、ありがとうございます」
目が合うなりジョセフはわたしをほめてくれて、本心からであることはすぐにわかった。だからわたしに制服を準備したのも他意がないことはよくわかった。予想外にも可愛いとか言われて照れちゃったけど、いやそうじゃないんだが。わたしの年齢の事、もしかしなくても忘れてる?!
そういえば、と差し出されたのはわたしのパスポート。当然偽造。こんなものが世の中に横行してるかと思うと、ものすごく怖い。ぱらりとページを開いてみると写真があった。勿論わたしのものだ。……いつ写真取った? ……え、もしかして念写!?
そんな驚きは直ぐ様消え去った。年齢のところに刻まれた印字は、わたしの心を冷やすのに十分すぎるものだった。わたしの後ろから覗き込んだ承太郎が、何か呻いたように言葉を漏らした。そりゃあそうだ、わたしが年齢について散々突っかかったのを覚えているんだろう。顔を上げる。ジョセフがにかりと笑っていた。
「どうじゃ、いい出来だろう?」
「……ジョースターさん、失礼ですが、わたしの年齢覚えていらっしゃいますか?」
見せ付けたパスポートにははっきりと十四歳と記載されていた。あっ、とジョセフが今、気付いたように声を上げた。最早文句の言葉さえ、口から出てこない。すぐにジョセフが謝ってくれたこのきまずい空間にポルナレフが踏み込んでくるまであと数十秒。
インド行きの列車に乗り込む。今頃デーボは検査とか、嫌がってるんじゃないだろうか。それにしても足の裏と手にある傷を止めている糸が、痒くて仕方ない。今は食事よりも早く抜糸したかった。しかし傷が治ってないものを抜糸できるわけもなく、大人しく団体行動。食堂車にて皆とくつろぎながら、食事をいただくことにした。
日本食にしか慣れていないわたしでも美味しいと感じることが出来てほっと一息。インドでも一番心配なのは食事だ。インド料理がどんなものかいまいち想像できない。三食カレーなら逆に平気かも。ココナッツとか入ってるんだろうか。それとも辛いのだろうか。すぐさま、日本食が恋しくなりそうだ。
「ミョウジさん」
「……はい?」
食事後にぼうっとしていたわたしに、花京院が声をかけてきた。ぼうっとしていた顔はさぞかし阿呆っぽかったことだろう。花京院を見ると、申し訳なさそうにわたしの皿に指をさしていた。指の先には残しておいたチェリー。ああ、うん、なるほどね。いいんだよ、お食べ。なんと言っても君のために残しておいたんだから。にこりと笑みを作ってやる。
「どうぞ、食べてください」
「あ、ありがとうございます」
少し照れ臭そうな花京院が、思わず微笑ましい気持ちにさせてくれる。そして彼はあの奇特な食べ方をした。わあ、い……想像を遥かに超える絵面で、もう少しまともな食べ方をしなさいと言いたくなってしまう。花京院の顔が整っているだけに尚更。しかしそれにツッコミを入れる勇気は持ち合わせていない。
こういうときは、見ないふりをするに限るのだ。窓の外を見つめていると、フラミンゴが湖にいるのが見えた。飛んでいくフラミンゴを見て、花京院が何かを楽しそうに言っていた。この平穏が突き崩されるまで、あとどれくらいだろうか。
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