・4話のボツ



見ているだけで満足していたあの頃と今とでは丸きり違っているから自分のビフォーアフター振りには本当驚きだ。

(あ・・・っ)

見つけるとそわそわして、彼がこちらに気付くとあわあわして、私に向かって手を振られるとそれに手を振り返しながら胸がキュンとして。人を見るだけでこんな風になることもあるんだ。友達と一緒に歩いて行く彼の後姿をぼうっと見送りながら思っていると突然横っ腹に痛みが走った。びっくりして地味に痛む個所に手を当てながら攻撃を仕掛けたであろう隣にいたエリーへ視線を向けると、私を見る目がまるで年頃の娘がお父さんイヤイヤと反発するような冷たいもので思わず顔が引き攣った。

「見すぎニヤけすぎウザすぎ」
「ヒドイ!特に最後のが!」

そんなにダラしない顔だったのだろうかと両頬に手を当てて横に伸ばしてみた。あ、ちょっと熱い。

「一ノ瀬で思い出したわ。今日も集まりあるんだったよ・・・めんどくさいな」
「エリーだけだよ。そんなこと思ってるの」
「・・・・・・。そうかもね」

少し思案顔をしたエリーが誰を思い浮かべていたのかなんて掃除当番が今日あることを思い出していた私は知らない。



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掃除当番が終わって中庭を歩いていると木の幹に爪掻きをしている猫を見つけた。ぶよんとしたお腹に丸くてかわいいなと思うと触りたい衝動が起きてそろりと近づく。だけど野良の本能か何かで気配を感じ取った猫は近づいてくる人間の私にくるりと振り向いた。昔遊んだ『だるまさんが転んだ』のようにピタリと立ち止まっていると向こうからこちらに歩み寄ってきて願ってもみない行動にしゃがんでその子を待つ。「ブニャー」ゴロゴロと喉を鳴らして擦り寄ってくる猫に、なんて愛嬌のある子だろうとにんまりしてしまった。そのかわいさで餌がもらえることを覚えたのか。賢いねー、と話しかけながら変わった模様の頭を撫でた。

「かわいいねぇ。でもちょっと痩せなきゃダメなお腹だね」

学校内に出没するようになったこの子のお腹周りはここの生徒から与えられる餌が影響されたのか初めに見た時より確実に着々と太っている。そういえば美術の先生も「ノブナガ」なんて呼んでこっそりごはんをあげてたっけ。そりゃあ太るわけだ。

「あっ・・・」

猫特有の気まぐれでぶよんとしたお腹を揺らしながらそっけなく私から離れて行った。おーい。もっとかまっておくれよ。のんびり歩く後ろ姿に唇を尖らせながら腰を上げた。太ってるねとデリカシーのない言葉を言ってしまったから気を悪くさせちゃったのかな。それともこんなに媚びても餌をくれないから見切りをつけられたのか。
何にしろもうすこし遊びたかったなと歩いている猫を見つめて思った。(どこ行くんだろう)猫のあとを追いかけたら素敵な場所に導いてくれるだろうか。大好きな映画を思い起こせるこの光景はどこか好奇心をかきたてる。ある訳ないと思っていても少しの期待を抱き教室に戻るには遠回りだけどあの子のあとを追いかけるように歩き出した。

(・・・お?)

一定の距離感を保ちながらあとをつけていると前を歩く猫は道を逸れて茂みの中に入って行ってしまった。入った茂みの前で足を止めて猫の姿を探すと茂みの先にあるブロック塀を飛んで越えていた。さすがにあそこまで追いかける気にはなれず行ってしまった猫にまたね、気を付けろよと心の中でつぶやく。冒険はあっという間に幕を閉じた。
荷物を持たない私が動ける範囲は学校内限定だから冒険なんてたかが知れているんだけども。(そろそろかーえろっ)
素敵な場所にはやっぱり着かなかったかと周りに目を向けながら再び歩き出す。と、ある木陰に人がいるのを見つけた。ふたりで寝転んでいる。カップルかな。遠目から見たふたりの服装でそう思い近すぎず遠からずのところから野次馬根性よろしくでチラチラと見た。知り合いのカップルだったら写メでも撮ろうかなと密かに企んでいると頭を鈍器で殴られたような衝撃が起きた。

「!?」

知っている人だった。けれどただの知り合いではなくて。見るだけで気持ちが動いてしまう、一ノ瀬くんだった。体中を駆け巡る血液が急速に冷えていくのがわかって硬直する。

(っなんで・・・?)

一ノ瀬くんのそばで同じように寝ている女の子はいつの日か見たことのある子。夏休みの直前、一ノ瀬くんに告白した子だった。名前は知らないけれど1組の子だと聞いていて。何度かふたりが話しているところを見かけたこともあって。・・・・・・。

(・・・・・・・・・。)

我関せずといった様子で彼らの前を通り過ぎた。彼らのことなど見向きもせず、ただただ何事もなかったかのように黙々と歩いて。(今日もへいわでした。・・・)自分の心臓の音がやけに耳障りだと思いながら足は次第に早くなっていて。(今日も、きのうとおなじでした。・・・)気が付けば駆け足となっていた。脳裏では誰かの声が聞こえた気がした。

<font color="#b3b8bb">「蓮くんが女子の忘れ物を届けてくれるなんて初めて見た」</font>

校舎に駆け込んで階段を一段抜かしで駆け上り、廊下に飛び出たところ人と危うくぶつかりそうになってブレーキをかけて謝った。ぶつかりそうになった人は何を言うこともなくそのまま行ってしまい、残された私は自分が気が動転していたことに気付いた。ドクンッ。脈が大きく動いた感覚は走ったことによる息切れと違うものも紛れ込んでいて。それが何なのかはっきりとしていて。

(私・・・、・・・)

呼吸を整えながらも消えずに離れてくれない先程のふたりが心を乱していくのがわかってスカートの裾を握り締めた。こんなにも、気持ちが大きくなっていたなんて。

(・・・一ノ瀬くん)

わかってしまった。ふわふわした気持ちも、ズキズキする痛みも、ぜんぶ。




(本当の4話。この先を考えたら主人公がずっと避け続けてしまうようなすれ違いしか浮かばなくてまるっとカット!)
(番外編に使ってる部分があります)

16.06.17 19:03 candygirl(×)
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