花がほころび始めるこの季節になると思い出す。ある後輩のことを――。




私が使っていた通学路の途中に横断歩道があった。比較的車の通りが少ないそこはゆっくりと渡ることができる、朝の忙しさから逸脱したようなところ。
そこで私は同じ学校の生徒を見かけるようになった。

別段珍しくはない。会社員も学生も通るから珍しくはない。
ただ、同じ学校の子を見るのはこれまでなかったので大分気になっていた。
数歩先の点滅した信号に次のを待とうと思った横から走っていく黒の後ろ姿。学校で見慣れた制服だと初めて認識したその次の日。今度は赤信号で止まる後ろ姿を見かけた。
信号が変わるのを待つわずかな時間にその生徒をチラチラと盗み見た。
この離れた位置から目視でもわかったことは気がかりだった学年。学ランの襟についたバッジの色で入学したばかりの後輩であると知れた。
年下という事実を知った途端、幼く見え始めて自分の中に先輩風が吹かれる。(ほう・・・コウハイかぁ)歩行者用の信号が青になる瞬間を見計らうように車側の信号が変わったのを見て歩き出して、すれ違うときに「おはよう」と爽やかな挨拶をしてみた。

どんな反応がくるだろう。まずは驚くだろうとそんなふうに思っていたが、気になった反応は全く違っていた。初めて見る顔に驚きの色はなく平然とした会釈を返されるだけ。1つ下とは思えない落ち着いた対応に心臓が叫ぶ。(先輩ぶってはずかしい!)いつもより歩く速度を上げて登校したその日から、私は一方的に後輩の彼に挨拶をするようになった。


この横断歩道で見かければ挨拶をする日が何度かあっても相変わらずぺこっと頭を下げるだけの無口な後輩だったが、部活の大会が終わった翌日。朝方に降った雨のにおいが残るいつもの道を歩いていると、点滅する青信号に背を向けてあの後輩が立っていた。

「? おはよう」
「・・・おはようございます」
(うわっしゃべった!)

意思疎通が初めてできた驚きで目を丸くする私に続けて「カゼだったんですか?」という質問がきた。その問いが突然だったのと意味がわからなくて2回瞬きをしたあと思わず聞き返す。

「えっ?」
「いや、あの・・・見かけなかったんで」

思いもしない出来事に飛んだり跳ねたりする心音のまま部活の大会だったことを答えるとつぶやき声を耳にした。「なるほど・・・」へぇこんな声なのね。
そりゃあ話すよね人間だもの。頭の中で有名な詩が流れてきてだんだんと落ち着きを取り戻せば、私も聞いたら答えてくれるだろうか、という疑問が浮かんだ。

「ねぇ!きみ名前はっ?」

青に変わった瞬間。そばに立つ後輩に今まで考えていた疑問をぶつけると、突撃隣の晩ご飯の如くやっていた朝の挨拶で一切見せない表情を初めて見せたのだった。あっ驚いてる。

「一ノ瀬蓮です」

蓮くん、ね。口の中でその名前を呼ぶと歩き出した彼が振り返ってきて何だかこそばゆくてつい照れ笑いを浮かべた。


「先輩っていつも決まった時間に家出てますよね?」
「! よくわかったねっ」




(出会いのおはなし)
(滝くんもそうだけど、黒子くんでもいいのかも)

16.08.01 23:28 strobe(bun)
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