何も掴めない掌がその想いを強くさせる。早く大人になりたい。

価値が高いと集められた囲いに小さな女の子が放り込まれた。その子はマリアムちゃんと同じ年ぐらいに見えるからただただ絶句する。ここまでとは思わなくて衝撃を受けていた。周りの様子を窺うがわたしと違って動揺はなかった(そのことにも“ズレ”を感じる)。この窮地で幼子の心配より我が身と泣きじゃくる女の子に送られる同情の目がそう物語る。環境ですり減る心を初めて感じ取ったわたしはぐっと込み上がる熱を抑えて赤い髪の女の子に近寄った。親とはぐれたところを捕まったのか頻りに両親を求めては泣いていて胸がズキズキと痛い。

どこにそんな力があるんだと驚きを隠せない強いホールドが骨身に沁みた頃。あと一息で仲良くなれると手応えを覚えていたのにまるで見計らうようにわたしと彼女は引き離された。わたしはここの奴隷市場に出されるらしく遠ざかる荷台を見送ることとなった。さっさと歩けと背中を蹴られて渋々歩き出す。湿った風が肌を撫でた。

街並のヨーロピアンな雰囲気に浮かれて忘れかけていたがわたしは奴隷であった(汚れた心のせいか如何わしいイメージが離れなくて困るのがアレだけど)。美術的価値が高いものを競り落とすオークションのような会場に出品として自分自身が置かれる状況をまだどこか他人事みたいに考えていた。

わたしはボンボンな家庭の末っ子に引き取られた。友達が欲しかったからとほかの姉たちに見下されいつも俯く彼は尋ねた購入理由を教えてくれた。その答えを聞いてわたしは足元に目を落とした。わたしの肩書きを示す鎖がちゃんと見える。買い主である彼の思いもしない言葉に戸惑っていた。
腰抜けハリーと他者から蔑まれるのはどうやら彼自身の出自と家族に関係するようだ。彼は王宮勤めの男が妻以外に抱えた女の子供であった。愛人の子と誹謗されるのはよく聞く話だ。だがそこに純粋な血を誇りにする一族が頭を悩ませる問題も絡んでくる。その男と妻の間に子どもは娘が4人と1人の跡取り息子がいた。しかし大切な一人息子は病で命を落とした。跡取りを亡くし嫁ぎ先は全員決まっている娘たちに頼ることもできず、由緒正しい一族の存続が潰えてしまうそんな事態に愛人の子どもを男は苦渋の末につれて来た。どこの馬の骨かわからない彼のことを血筋が命より大事と当たり前に思う家族からの風当りは厳しく、彼は顔を下に向けるようになった。いつしかビクビクとする彼のことを周囲は腰抜けと呼び、どうしようもない寂しさを解消させるために犬ではなくわたしが買われたということだ。
何かの物語で読んだような複雑な家庭でハリーとあだ名で呼ばれる彼ハロルドに向けて手を差し出した。「ハロ。わたしと友達になってくれませんか?」自由を縛る鎖を解いてくれた彼は何度もうなずいて握り返してくれた。

家庭教師にしごかれて剣術の腕を磨くハロの見た目はナヨナヨしていたのが嘘のように逞しくなった。一生懸命取り組んで得た力は彼の自信にもなり以前の弱弱しさもなくなった。成長したなと親のような気持ちでいるわたしも大きくなったと思う。年を15超えたあとは身長は止まったが(精神年齢は虚しくなるので数えていない)。それになによりわたしの周りに集まってくるルフが魔法になるやり方を知れたのが一番の成長だろう。それはハロの家庭教師がいい人で知り合いの魔導師からもう読まないと譲ってもらった魔法関連の書物をわたしにくれたからだ。魔法の種類、魔法の相殺、本だけの知識では物足りずいつかはマグノシュタットで魔法を学びたいなと夢見るようになったある日。
ハロと賑わう市場で買い物していると全身に走る言い知れない感覚に背筋を伸ばし辺りを見回す。喧騒が一瞬遠のく。人混みの中を泳ぐ目はピタリと定まり、相手はすでにわたしを見つめていた。
「君は、マギ?」
とんがり帽子と長い杖。魔法使いみたいな出で立ちの彼は首を傾げて問う。否と答えた。スッと目を細めて続ける。「その左胸にある模様」透視能力があるのか。思わず顔を赤らめるわたしを隣のハロが訝しんでいた。
「それはなに?」
「不完全な部分を補うためだと言ってました」
「・・・なるほどね。だから君にはあるものがないんだ」
置いてけぼりのハロが隣で眉を寄せている。口を挟まないあたり空気を読んでいるのかもしれない。
「あなたはマギ?」
「そうだよ。僕はユナン」
近くに用があったんだと笑う。やっぱり『マギ』か。ほかの人と本当に違うな。ただマギとは世界に3人しかいない稀有な存在と聞いていたからこうして会えるのはかなりレアだろうか。なんてことを考えていたわたしとハロを交互に見やったユナンさんは口を開いた。
「君たちはこの近くにある迷宮を知ってるかい?」
ああ、国を挙げて挑んでは誰一人帰って来ないっていう恐ろしい塔のことか。そういえばハロのお姉さんの嫁ぎ先が将軍の家で果敢に挑みに行ったまま帰って来ないと嘆いているんだとか。近しい人にもこうして影響を及ぼすほどで、悪い子を叱りつける時に迷宮に放り込むよと母親たちの口癖になるくらいこの町では恐怖の対象として認知しているのだろう。当然知ってるとハロが首肯すればニコニコと笑顔を向けた。
「君たちは挑戦しないの?」
あれ?これってもしかして選ばれたの?

去り際に告げられた言葉に顔を顰める。「君は世界の軸になるよ」なにその王子様がスポーツするやつみたいなセリフ。そんな大それた存在になってたまるか。左胸に手を当てながらやれやれと息を吐いた。

『       』――まったく、あなたのせいですよ。



(とりあえずここまで)
(書き殴りのこれらをまとめて修正していつかちゃんと書きたい)

18.05.07 23:59 magi(bun)
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