泣いてないかな。

「おいアリババ!やっぱあいつ奴隷商の連中につれてかれたらしい!」
「そんなっ!そこくに帰るってウソだったのかよ!?」
ああやはり知られてしまったか。仲良くしてくれた小さな彼らに要らぬ心配をかけないようにと吐いた嘘がこんなに早くバレてしまうとは。宿屋の主人め。誰にも言わないでほしいと頼んだのに忘れるとは。でっぷりしたその脂肪を軽い口の中に詰め込んでやりたい。

「ほらっ広いだろう!」
キラキラと光りを弾く海を得意げな顔で紹介する。なんでドヤ顔、と傍らに立つ少年が呆れ返っていた。周りの和やかな笑いがこぼれる中、どこかウキウキな青年に船縁へ案内されたのは暗く沈んだ表情をした小さな女の子。ああそんな顔させたくなかったのにな。笑うとかわいいから悪い目に留まったらと思うだけで気が気じゃなかったことがあったけど今は。
「君のお姉さんと約束したんだ。必ず国まで送るって!」
あれ?そこまで約束した覚えはなかったが・・・?煌に一番近いところに向かうと知ったからこの船を選び乗船を願い出たわけで、最後まで面倒を見てくれるなんて・・・大丈夫か?そう思えば案の定驚きの声が上がる。そしてやれやれまたかと。どうやら彼の突飛な発言は日常茶飯事レベルのものらしく不服を唱えるどころかその言葉をけろりと受け入れ各々仕事に戻っていく。思わぬことだったがよかった。安心。
「お姉さんは不思議な人だったな」
いつまでも暗いままだから打ち解けようとしたのだろう。世間話のつもりで振ったそれを「おねえちゃんはわたさないから!」と威嚇で逆立つ猫のように反応して青年は面を食らっていた。初めて見る子供らしい表情につい口元がほころべば可愛らしい攻撃を受けてさらに笑みが深くなる。うん、うん。かわいいもんね。にやけちゃうのわかるわー。心を開いて増える笑顔に力が抜けるほどの安堵を覚えた。よかった。・・・よかった。

びくっ。授業中に居眠りをした時と同じ変な震えで目を覚ます。ぱちくりと瞬いてぼんやりしていたが大丈夫かと気遣う声にはっとした。「魘されてるかと思えばニヤニヤ笑ってるし大丈夫かい?」うわあ何それはずかしい。頭を抱えようと手を持ち上げるが重たくて諦めた。
お金を工面できなくて自ら飛び込んだこの場所は色々とヤバそうじゃなくてヤバかった。手も足も枷をつけられるし、食事も水もろくに与えられないし、ここに集められた人たちのほとんどが強引に連れて来られたっていうし。ああもうほんとにいつの時代だよ。またしても拭えない違和感に胸がむかむかしてよく眠れてなかった。だからか今見た夢に気持ちが落ち着いてやっと深く息が吸える。白昼夢じゃないだろうと先立つ不安を打ち消したくて指先に止まる光をじっと見つめた。わたしが気になっていたから『見せてくれた』のか。これでほんとうに安心できる。ただ気にしないでほしかったバルバットの子たちには時間が忘れてくれないかと願うばかりだ。できたら謝りたいけれど、数多くある別れの一つであることを大人になってわかってくれたらいいか。(ありがとう・・・母さん)そばにいてくれた優しい光の鳥に感謝した。
「やっぱりお前さんルフが見えるのか」
初めて聞く言葉に首を傾げる。途中で鳥が危険を知らせてくれて運転手に伝えた矢先、進もうとしていた先がぱかりと穴を開けて陥没した。このまま知らずに進んでたらと皆が青褪めて息を呑む中、これなんだっけシルクホールって言うんだっけと記憶を振り返っていたら「なんだこいつ」「気味悪い」「こいつ魔導師か?」と口々に言われ事故を未然に防いだことで後ろの荷車に移動させられた。先ほどまでいたところと違い人数は両手の指より少ない。なんだここはと訝しくしていると希少価値がある人間が入れられるところだと年上の子が親切に教えてくれた。そしてその人がルフが見えるのかと訊く。
「白く光ってて小さな鳥みたいなもんが見えんだろ?あたしも見えるんだ」
今まで誰にも見えないものだと思っていた鳥に名前があり見える人がいることに目を見開いて驚く。詰め寄って詳細を求めればオロオロしながら教えてくれた。「村のババ様が見える人であたしに色々教えてくれたんだ」肉体が土に還るのと同じで、魂が還るところ。魂のふるさと。自然に力を与えたり、魔法という力になったり。・・・。目視ができる人は魔導師の素質があるらしく重宝されることがあるとかないとか。魔導師ってのはRPGの職業の一つに数えられる魔法使いで、ルフはエネルギーみたいなものか。自分なりにそう解釈してふむふむと頷くわたしの視界に黒いルフが通り過ぎた。
「あの黒色のルフはなに?」
首を振る返答の後、外の騒がしさに耳を澄ました。前の荷台で病死者が出た、勘弁してくれ、感染は、どうやら問題ないやつだ、死体はどうする、使い物にならないから捨てて行こう。聞こえた内容に眉を顰めると目の前にその黒いルフを悲痛な顔で見つめる人が現れた。その人を見てあっと思う。さっきいたところで見かけた夫婦の。その人はわたしに気付くと手を伸ばしてくる。だけどわたしに触れる前に消えてしまった。「なんでルフがこんなにたくさん」不思議がる彼女にあの人は見えなかったのか。(何もできないよ)触れる前、消えてしまう前。たしかに届いた願いに思わず顔を歪める。――どうかあの人を救って。

『           』・・・。アホか。わたしはまだ“無知”な子供だ。



(主人公ルフを知る)
(国を大きくさせた軍事力に興味を持ち送るという名目で内部調査。そして神官様や組織たちの目に留まりアラ大変☆ってところまで妄想しました)

18.04.21 22:51 magi(bun)
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