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くうんと甘えるような声に気付いたのは目が離せない一番の盛り上がりが落ち着いたころ。その根源は後ろの和室からだとチラッと振り返ればしっかり閉まっていたはずの襖は大きく開いていた。この声の主が開けたのだと瞬時にわかって「いいところだったのに」と邪魔された気分で唇を尖らせた。
過激で壮絶なバトルが次も続く様子の次回予告を映したテレビは終わりを告げている。子供が見ていいものではないがそこはほかと違う彼女は次も忘れずに見なきゃと期待に胸を躍らせていた。
CMに入ったテレビの前からやっと席を立つ神楽は和室に足を踏み入れる。暗がりの和室に白い大きな塊がまた鳴いた。
そこは再三新八が入っちゃだめだからと言われていたところ。言いつけを律儀に守ったわけではないが見知らぬ女よりも欠かさず見ている昼ドラのほうが大事だった神楽はこれまで気にすることはなかった。ただ、定春が珍しく知らない人に向かって吠えない姿に不思議がりはしたが、ハンターは動物に好かれやすいというのを銀髪男から教わったことを思い出して特に気にも留めなかったのだ。
「定春?姉ちゃん起きたの?」
中央に敷かれた布団のそばできちんとしたおすわり状態で見守る犬にそう話しかけると丸い目と合った。「ヨシヨシ」頭を撫でると下がった眉毛が少し上がってふわりとしっぽを揺らす定春の隣に座り込み布団で眠る女を覗き込んだ。
誰なのかという問いに新八は何て言えばいいだろうと困った汗を流していた。色々と考えた末に出した「銀さんの知り合いのお連れさん」という的確な言葉は始まり出したドラマに意識を集中させていた神楽は聞いていない。
それを知らない神楽は無遠慮に寝顔を見た。けれどすぐに飽きてくる。これといっておもしろくもない女の様子を見続けるのに飽きた神楽は好物の酢昆布を噛み始めた。遊びに行こうかとつまらなそうに再び女の寝顔を見た時、目尻から流れる一筋の線が目に入った。
その米神を伝う涙に神楽はわずかながらに瞠目させていた。その寂しい表情がなぜだか昔の自分を見ているような錯覚を覚えてぎゅうっと隣の定春の首に抱きついた。
「定春ゥ・・・早く起きるといいネ」