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肌身離さずいること。五円玉の穴と同じぐらいの玉が吊るされた首飾りを受け取った時にそう言われた。「これがお前さんを守ってくれる」長めのネックレスチェーンによって深い海の底のような色をした玉は今日も心臓のそばにある。
五月晴れが降り注ぐその下で高校生の男女が前後に並んで歩いていた。先頭を女がイヤホンで耳を塞いでパタパタと歩き、その後ろを男が追いかけるようにゆっくりと歩いている。第三者の視点があるとすれば彼女の方は忙しない早歩きのようだ。
二人の制服に付いた校章のデザインが同じことから向かう先の学び舎は同じであり見えていないが学年も同じである。そしてクラスも、苗字までも。住んでいる家さえも。仲良く雑談とはいかない思春期の男女、そう見える二人をこっそり窺う小さな影があった――足元に。
昨晩の一雨が残った道の脇で。ごくり。朝日が眩く反射する水溜りから飲み込む音が鳴る。イヤホンを付けた女には聞こえなかったのか水溜りを避けて歩き、そして。ばしゃん。水溜りの底を踏み潰すように後に続く男が豪快に音を立てて踏んだ。激しく揺れる水面をすこしの間じっと見つめ再び歩き出す。その後二人が遠ざかった水溜りから飛び出した影が風と一緒に逃げていった。
「おはようナギト」
「ナギトくんおはよ」
「はよーナギトー」
校舎が目と鼻の先に見えてきたころ、友人と談笑したり単語帳を捲ったりと登校時間を潰す生徒たちで溢れていた。そんな中で付かず離れずの二人・・・主に後ろの男に気付いた生徒が親しげに声を掛ける。それら全てを彼は笑顔で受け止めて肩を並べた学友たちと言葉を交わした。だんだんと離れていく背中を見逃さないようにナギトは一限目の授業を嫌だなと口にした。(何が嫌なのか分からないがこう言えばいいだろう)以前大袈裟に肩を落とした学友を思い出してそんなことを言ってみれば仲間だー!と喜んで同調された。「てか足濡れてね?なんで?」「ぼんやりしてたら水溜り踏んでたんだ」
賑わう風景の端では昇降口に辿り着いた女が自分の名前が書かれた下駄箱から上履きを取り出し、もう一方の端ではチラリチラリと周辺を警戒しながら身を引き締める男子生徒が用心棒と称した猫のことを恨みがましく思っていた。
(ただでさえ寝不足なのに朝から絡まれるとかサイアクだ・・・)