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入学祝いで貰った財布を片手に購買へ向かう前に隣のクラスに顔をのぞかせる。けれどメールの送り主は見当たらず困ったようにほんのちょっぴり小首を傾げている自分に気付いた人物が親しげに近寄ってきた。にんまりと片手が上がりひらりと揺れた。
「あづきちゃん!」
「やっほー集」
楕円形のメガネをかけた男子生徒、舞子集が嬉しそうに破顔するのでこちらも嬉しそうに微笑んだ。ふわふわと柔らかい雰囲気の二人の関係性を知らないクラスメイトは見ていないフリをしつつそば耳を立てていた。しかし集はにっこりと笑いあづきをつれて歩き出す。「購買行くんでしょ?歩きながら話そ」案の定クラスのミーハー心には気付いていたようである。
「楽に会いに来ただろ?今あいつ雑用係りでさぁー。ちょうどいないんだわ」
「まったく、呼び出しといて」
への字に曲がる口を見て今になって不思議がる。あの楽が連絡を入れていないのか。短い思考の後そんなはずはないだろうという結論に至り、メールは届いていないかと確認させるとやはり届けていたようだ。誠意のこもった内容がちらりと目に入るのと一緒にあづきの表情の変化にも気付いた。我ながらナイスフォローと小さく鼻を鳴らす。そのまま鼻歌でも歌うような気分で訊いた。「呼び出しと言えばさ」
「さっき流れてた放送は何だったの?」
並び合った肩が見えなくなって、後ろを振り返る。あづきは忘れ物に今気が付いたような顔をして立ち止まっていた。
「シュウちゃん」と。昔の呼び名を使う彼女はどこか諦めたような顔で告げてくる。
自分のことしか考えていなかった。みんなに言わなきゃいけないことを忘れてた。そしてごめんと溢したあと。・・・・・・・・・。
(“みんな”ねぇ・・・・・・)
ひとり教室に戻る集は彼女の言動を心寂しく思っていた。何だかんだと長い付き合い、同じ時間を何度も共有してきたはずなのに、あづきの言うみんなの中に含まれていることが思いの外ショックだったようだ。ちょっと不貞腐れる気持ちになったがぱっと思い浮かぶ顔と自分自身を比べてからまぁ無理もないかと少し大きめの息を吐き出して気持ちを切り替える。
今までの明るさを押し込んで大人しくなってしまった彼女のそばを片時も離れようとしなくなったあの日から。天秤はアイツの方が重いに決まっている。
(あづき“クン”は昔からまっすぐだからな〜)
張り合うように言ったのか閃いたと楽しそうに言ったのか思い出せない呼び名の思い出をこちらも引っ張り出してそんなことを思う。このやり取りは優越感もあって好きだったなとそんなことも思い出す。(しばらくこの優越感に浸っててもバチは当たらんだろ)だから言わないでおこうと雑用に走らされている親友を思い浮かべるのだった。