4 (´□`)
一日目、ふでばこを頭に当て人前で土下座をして人目に晒してしまった。
二日目、暑い暑い日中にお目当ての飲み物のラストをとってしまった。
三日目、お姫様だっこをしてもらい、倒れてからも看てもらってしまった。
そして、今日四日目。
また何かあるかもしれない。
しかも今日は移動教室が多い日。
だから木曜日は好きじゃない…。
一時間目は家庭科で調理実習。
二時間目は音楽で音楽室。
三時間目は数学でやっと教室…かと、思いきや四時間目体育。
…午前中は油断ならねぇぜ。
午後は現文と世界史。これは教室だ。
掃除当番でもないし、部活もないし、午後は大丈夫。
よし、午前の授業がんばるぞ!
「ちょ名前!パン粉こぼすよ!」
「ええ、ああああ、ごめん!!」
調理実習で作るものはハンバーグです。
「…」
「どうしたの?」
「ううん、何でもない。帰ろう?」
「ね、今日さ本屋寄ってもいい?」
「いいよー」
リュックを背負って綾の隣に並ぶ。
(…何にもないや。良かった…)
「ね、衣装順調?」
「うーん、まあ、いけそうかなぁ…綾は?」
「私?そうだねぇ…こっちもいけそうかなぁ…でも面倒だねぇ…」
「ねえ、わかる…まあ今年だけ作ればいいし、来年からはお菓子だけだよね?」
「うん、あと接客?」
「うわあ、やりたくないー」
「でもシフトの時間だけだし、一年みたいに呼び込みしなくていいから楽じゃない?」
「あーそれはある」
自習の時間。
出された課題を早めに終わらせて綾と適当に話す。
「てか、眩しいんだけど…」
「最近日差し強いよね。もうすぐ六月だし」
「やだーやける」
「ね、私昨日塗り忘れてやばいとか思って」
「いいじゃん。名前白いもん」
「綾もじゃん」
窓側の私たちは窓からの日差しに目を細める。
「カーテン閉める?」
「そうだね、そうしようか。じゃあ、頼んだ」
「綾さん動きたくないんですね」
「いえす」
そう答える綾にため息をついて、席を立つ。
カーテンを引いたとき、ふとグランドを見た。
(あ…)
「名前?」
「あ、いや…あれ、せんぱい、だよね?」
「んー?どこ?」
「…ほら、あそこ」
窓に指が当たる。
指をさした先には暑い日差しの中をボールを追いかける先輩が居た。
黒い髪は目立たないけど、癖っ毛だから意外と分かりやすい。
無表情だけどその顔には汗があった。
先輩は上手くボール味方へとパスして、パスされた人はシュートを決めた。
「おお!」
「へえ、ナイス」
「先輩サッカー上手だね。サッカー部なのかな?」
「さあ…でも運動神経良さそうだよね」
「赤葦先輩のこと?」
「わあっ」
「あ、いいんちょ」
綾と窓の外を見ていると、後ろからひょっこり顔を出したのはシンプルなフレームメガネが似合うあだ名がいいんちょの、
クラスメイトの女の子だった。
「なに、いいんちょ知ってんの?」
「そりゃあ新聞部だもの!二年六組赤葦京治。部活はバレー部!なんと、二年にして副部長!
しかもさすがバレー部百八十越えの身長にあのクールな性格に涼しげな目元!
普通にモテる先輩!」
「へえ、バレー部なんだ」
「あかあしけいじ…」
「あ、ちなみにね、あかあしってこう書くんだよ」
いいんちょは勝手に私のプリントに先輩の名前を書いて行く。
赤葦京治。
「え、あしってこの葦なの…難しい」
「…私書けない」
「名前はまず読めなさそう…」
「…えっ、よ、よめるよ!たぶん…」
失礼な綾の発言を否定しながら、もう一度窓の向こうへ視線を向ける。
クラスメイトとハイタッチをする先輩。
ちょっと、笑ってる。
(…男の子、ってところあるんだ…)
「…」
「名前!指切ってる!」
「え?」
「え?じゃない!」
綾に言われて手元を見ると指から血がたらり、と垂れていた。
「うわあ、危ない!…ふう、バナナ無事ね…」
「…私の指の心配は?」
「早く手洗って。あとナイフとまな板も!」
「はい…」
家庭科部。
それは綾と私が所属している部活だ。
月に一回部員みんなで集まってお菓子や料理を作って食べてお話する、という何とも楽な部活。
部員もそれなりに居てバイトをしている子や習い事で忙しい子が思い出作りに入る子が結構いる。
普段は緩いが文化祭のときはそれなりにやることがあるので、良い感じにやりがいがある部活である。
基本女子だけだしある意味楽だ。
「名前ちゃんだいじょうぶ?」
「あ、先輩。大丈夫です…すみません、汚しちゃって」
「それは別にいいけど。何か今日ぼーっとしてる?てか、最近?」
「え、そうですか?」
「こないだ頭ぶつけてたよね?自動販売機に」
「うっ、見てたんですかっ!」
「うん」
笑顔で頷く先輩。
「てかさ、体育館気になるの?」
「えっ!」
「さっきからチラチラ見てない?」
「いや、えっと…」
家庭科部が主に使う調理室は渡り廊下を挟んで体育館の隣にある。
…バレー部が使用している体育館の隣に。
私がもごもご口を濁らせていると、先輩が面白そうに笑う。
「分かった!バレー部に好きな人でも、居るんでしょ?」
「…す、好きかどうかは分からない、です。ただ、気になって」
「ふーん?いいんじゃない?」
「先輩面白がってます?」
「えー?可愛い後輩に青い春の予感なんでしょ?いいことじゃん?」
「…」
「で、誰?三年なら協力するよ?クラスにバレー部居るし」
「…だ、だいじょうぶです!」
「あはは。冗談冗談」
先輩は笑いながら綺麗にフルーツを盛り付けて行く。
今日はパフェを作っています。
好きなんかじゃない。
ただ気になるんだ。
先輩のあのちょっと冷たそうな目が見たくて…あの落ち着いた声が聞きたくて、
私を抱きあげたあの腕を触ってみたくて…すれ違うだけでもいい。
ただこの距離はいやだ。
どこかもどかしい。
三日連続で遭遇したのはラッキーだったのかな。
急になくなったから寂しいのかと思った。
でも一週間経っても先輩の存在が気になる。
……赤葦先輩、て呼んでみたい。
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