進行
「名前どこ行くん?」
「信介くんこっち」
彼女は北の腕を掴んで、ずんずんと廊下を歩いていく。二人で一緒に一晩を過ごしてから、数週間経った。以前よりも彼女から連絡は来るようになって、互いのコミュニケーションも増えたと思う。北は順調だったと思っていたが、昼休みになって彼女が北の席の前に仁王立ちで昼食に誘ってきた。北はお誘いと言うより、まるで挑戦状を申し込みにきた人のようだと思った。彼女の顔はどこか怒っているようにも見えて、北は表情を変えずとしても戸惑っていた。
彼女は部室棟に来ると、制服のポケットから鍵を取り出してある一室に北を押し込めるように入った。北たちが普段使っている教室を半分くらいにした文化部の部室だった。その部室の真ん中に机が六個ほど固まって並んでいた。
「え、ここ……どこの部?」
「文芸部。実際は幽霊部員しかいないけど、私も名前だけ貸してるの」
「せやったん?名前帰宅部って言うてたから、部活棟に慣れてる全然イメージなかったわ」
「うん、信介くんそこ座って」
「ええけど……ちょ、名前」
彼女は北の手を引いて北を適当なイスに座らせると、北の膝の上へ跨るように座る。その行動には北もさすがに目を見開いて驚いた。そんな北のことは後回しで、彼女は北にぎゅうう、と抱き着いてそのまま北の耳に唇を押し付けた。びくっと、北は肩を揺らして我に返る。彼女を自分から離そうとするが、彼女は北にくっ付いて離れなかった。
「名前?いきなりどうしたん?」
「……しんちゃん、しよ」
「!」
「最後までじゃなくて、いいから。おねがい、しんちゃん」
二人だけの、合図だ。唯一、北のかたい、かたいかたい理性を崩す可能性が高い方法だった。彼女は北と一晩過ごして、とても満たされた幸せな気持ちになった。北に告白され、抱き締められ、キスをされ、そのときもとても満たされて幸せだった。彼女は思った。信介くんとの幸せの大きさが大きくなればなるほど、寂しくなったときの心の隙間は深くなっていく。しんちゃんにぎゅってしてほしい。匂いをかぎたい。ぬくもりを感じたい。しんちゃんが欲しい。
「名前」
「しんちゃんが欲しいの」
「……」
北は彼女を強く抱き締めながら、心の中でため息をついた。あかんなぁ、名前にはバレバレなんかなぁ。俺も名前のことが欲しかったんやけど、我慢しとったのに。名前はあかん子や。ほんまに。どこまでも俺を甘やかすつもりなんやろ。
「むう」
彼女の後頭部を支えて、北は彼女の唇を奪った。くぐもった彼女の声さえも、ぞくりと北の腰を刺激する。唇を押し付け合って、薄く開いた彼女の唇の間へ舌を差し込んだ。こないだ北はこの舌で、彼女の中へ入りこんだ。入り込んで、彼女のことを好きにした。今も、北の舌は彼女の中に入っている。その事実に気付いた北は今まで以上に気持ちが高ぶって、彼女の舌ざわりを堪能するように軽く歯を立てた。今まで意識したことはなかったが、北は頭の片隅で思う。俺噛むの好きかもしれへん。舌を擦り合わせて、絡ませるのも嫌いではない。それ以上に、噛むという行為は欲望のままにやってしまう。歯が沈んで、彼女の中に外側から無理やり入ろうとする感じ、それがたまらない。
「やぁ……んん」
「んっ……」
彼女の甘い声に北は自分の身体に熱が集中していくのが分かった。くちゅくちゅと、舌を絡ませて唾液をまぜる。どんなことでも、彼女と北のものが一つになる行為に興奮する。二人は穏やかな日差しが照らす教室には似合わない音を立てて、互いを求めあった。北は彼女の腰を支えながら、くしゃくしゃになったスカートを引っ張る。
「あ」
「あかん子やな、名前は」
「ん……」
お気に入りの下着越しに感じる熱に彼女はほんのりと頬を赤くして、北を見つめる。北は彼女の濡らしている口の端を舐めて、彼女の髪に指を差し込んだ。くしゃくしゃと、彼女の髪が音を立てる。
「しんちゃんも?」
「うん?」
「しんちゃんも、あかん子?」
彼女が北の頬を小さな両手で包んで、首を傾げた。さらさら、と彼女の髪が揺れる。北は彼女を抱き寄せて、彼女の耳に囁いた。
「せやな。名前のせいや」
「二人一緒だね」
彼女の甘く嬉しそうな声に北はわざと腰を動かした。がたがたと揺れるイスと音と、彼女の悲鳴が重なった。熱を押し付けられた彼女は耳まで真っ赤にして、自分の胸をおさえる。
「び、びっくりした」
「はは」
「しんちゃん!」
「名前ほんまかわええなぁ」
北の柔らかい笑顔とともに、零れた言葉に彼女はうぐっと言葉に詰まる。ずるい。彼女は北の膝から降りると、ぐいっと北の膝を開いてしゃがみ込んだ。北は一瞬頭の中をはてなでいっぱいにしたが、すぐに彼女の考えを察して顔を青くし赤くした。
「名前それ、は」
「しんちゃんをもっとあかん子にする」
彼女はにやっと笑ったつもりだったが、北には可愛く可愛く微笑まれただけで、彼女と同じように言葉を詰まらせてしまった。その北が呆気にとられた間に彼女は北のスラックスに触れて、自分の下腹部も熱をもったのが分かった。かちゃかちゃ。ベルトを外す音に北はハッとして、彼女の小さな手を掴む。彼女はしょんぼりと、眉を下げて北を見上げる。とても悲しそうだった。なんで、そんな顔……俺がされなあかんのや。北の横に振ろうとした顔が不自然なところで、止まる。
「……私に触られるの、いや?」
彼女は北に拒否されるかもしれないことが怖くなって、目を潤ませた。北は今度こそ、言葉をなくしてゆっくりと首を横に振った。
彼女は慣れない手つきでベルトを外して、スラックスのチャックを下ろした。緊張して、ドキドキして指先が上手く動かなくなるたびに北は優しく彼女の頭を撫でた。そして、彼女は目の前に現れた自分とは違う、異性の下着に顔を真っ赤にした。見慣れない。手探りで北のもの、をそっと取り出してじっと見つめる。友達との会話、ネット、漫画……、今の時代いくらでもそう言った知識を得る機会はある。彼女は北の様子を気にかけながら、手を伸ばした。
「んっ」
「ご、ごめん。いたい?」
「いや、もっと触って」
「うん」
彼女は小さな手で包むように触れて、ゆっくりと手を動かした。透明でぬるぬるしたものを彼女は興味深く見つめて、内心首傾げる。これは女の子が気持ちいいと濡れちゃうの、と一緒なのかな。当たり前のように異性と過ごしているが、全然異性の身体については分からなかった。不思議な生き物だ。あの夜を思い出して、彼女は手を動かす。北がしてくれたように、やさしくふれる。彼女の手がぬるぬると汚れていく。その光景に北は彼女に申し訳なさを感じたが、それとは裏腹に自分の支配欲が満たさていくのがわかった。
「しんちゃん……いたくない?」
「痛ないよ」
「ん、良かった」
「名前」
「うん」
「ここ触って」
北は彼女の手を掴んで、自分の感じるところへもっていく。彼女は静かに乱れる北の姿に胸がとてもきゅん、となった。もっと、知りたい。しんちゃんの好きなこと、嫌いなこと、得意なこと、苦手なこと……気持ちいいことも、全部知りたい。もっと知りたいなぁ、欲しいなぁ。北の言う通りに指先を動かして、北を見上げる。
「あっ、そこ、……んっ」
かわいい。頬を薄く染めて、眉をよせて感じる姿がとってもかわいい。普段のしっかりとした口調からは考えられない、熱い息や崩れた言葉が北の口から零れる。もっと……、彼女は自分の気持ちに素直になって、北のものに口をつけた。ちゅう、とキスをするように触れて、吸って、北を自分の口の中へと迎え入れた。どろっとしてあたたかい唾液が北のものに、絡んで北は思わず瞑っていた目を見開く。名前の口に、俺のが入っとる……?北は一瞬自分が欲望にまみれた夢が見ているのかと思った。
「ちょ、名前あかんて」
「ん、んむっ」
「っ」
彼女は口いっぱいにして、離そうとする北の手のひらに抵抗した。口の中をこんなにいっぱいして、歯を立てないようにして、舌まで使う。気を回すことが多過ぎる。彼女は色気のない考えを隅に寄せて、北を気持ちよくしたいという一心で頭を動かした。北は彼女の頭を押さえようとして、手が止まる。北を見上げる彼女の目が悲しそうになるからだ。しかも、自分のものを口に咥えたまま彼女が見つめてくるものだから、北のものは素直でよりかたくなる。その感覚に北は頬を熱くして、歯ぎしりを立てた。彼女を拒否したいわけではない。でも、自分の欲求だけを彼女に押し付けることもしたくない。
名前は意地悪や。俺の、名前を汚したくないっていう気持ちが名前を傷付けるんやったら、拒否できへんやんか。北は滲んでぐる視界でも、無理やり目を開けた。涙で彼女の姿が見えないなんて、嫌だ。
北の熱のこもった息遣いが耳に届くたびに、感じるこの気持ちはなんだろうと彼女は思った。自分が触れられるとはまた違った気持ち良さがあった。しんちゃんが気持ちよさそうにしていると、私も気持ちいいかもしれない。
「あ、かん……名前、ほんまにはなし、て」
彼女はいやいやと、北のものを咥えたまま首を横にふった。北の指先が彼女の髪をぐしゃと乱した。北は両手で彼女の髪に触れてるが、上手く力が入らない。理性と欲望のが自分の中で反発し合うのが分かる。彼女は北の目にある葛藤を察しながら、北のもをちゅうと吸った。しんちゃんはもっと素直になっていいのに。じゅぶじゅぶ、と酷く濡れた音が響く。気付いてないのかな、しんちゃんさっきから腰を私の口に押し付けてるの。そうすると、彼女はえずきそうになる。でも、嫌ではなかった。顎のだるさも、全然気にならない。しんちゃんはとっても優しくて、自分に厳しい人。だから、そんなしんちゃんを甘やかしたい。わがままにしたい。
「名前あかん、あかん……」
「んっ、……んんっ」
「もう、あかんて……ほんまに」
彼女はもう一度首を横にふる。いいよ、好きにしていいんだよ、気持ちいいならそれでいい。彼女は北を見上げて、いつかの北のように甘ったるく目を細めた。全てを許すような彼女の笑みに北は腰を揺らしながら、顔を横にふる。前髪が少し額に張り付いて、気持ち悪い。北の口からは歯ぎしりを立てても、声がもれてしまう。がたがた、とイスが騒がしく音を立てる。その音にでさえ、追い詰められている気分だった。ここがどこで、自分が何をされているのか嫌でも再確認してしまう。そして、またその事実に興奮する自分が居ることが北の心を乱した。
「いやや、名前……おれ、いや、うっ」
「んっ、うっ……」
北の泣いているような声に彼女は顔を上げようとして、そのとき口の奥、喉にどくどくと熱いものを感じて彼女は咳き込んだ。次の瞬間、彼女は涙目になって、口を押えた。どうしよう。今度こそ北を見上げると、そこには荒い息のまま熱っぽい目でぼーっとしている北の姿があった。きゅん、となった。胸が、身体の奥がきゅん、となった。かわいい。色っぽい。あどけない。彼女の視線に気づいた北は自分の下半身を見下ろして、彼女を見下ろして、目じりを吊り上げた。彼女はやばいと思い、口を手で押さえたまま勢いよく立った。その際、ごくっと喉をつい動かしてしまい、飲んでしまった。そのことを見逃さなかった北は彼女の腕を掴んで、部室を乱暴に出て行った。
「あと、二回」
「え、でも、もう大丈夫だよ?」
「二回」
「は、はい」
人気のない手洗い場で彼女は北の監視のもと、うがいをさせられていた。口の中の熱さが消えて、味気のない水の味でいっぱいになる。ちゃんと二回終えて彼女が北を見上げると、北は厳しい顔のまま頷いた。
「信介くん怒ってる?ごめんね、私したことないから下手で」
「……」
北の眉間の皺が深くなり、口がへの字になる。彼女はああ、やっぱり、気持ちよくなかったのだと落ち込んだ。そもそも、学校でこんなことしたこと自体に怒っているのもあるだろうけど。しゅん、と気落ちした彼女は俯いてスカートをそっと掴んだ。しわくちゃになっても、どうでもよかった。はあ、と大きいため息が廊下に響く。彼女の涙腺が弱くなって、目が潤むのが分かった。
「とりあえず戻るで」
「……」
返事はできなかった。北に腕を引かれ部室に戻ってきた彼女はどうやって謝るかで頭がいっぱいだった。後ろからいきなり北に抱き締められて、声を出せずに驚いた。
「し、信介くん?」
「違うやろ?」
「え?」
「しんちゃん、って呼ばなあかんよ名前」
「……」
彼女は振り向いた。らしくない北の、笑顔だ。いじわるな、笑顔だ。彼女はいつもよりきつめに抱き締める北の腕に触れて頬を引き攣らせた。北は不自然な形を作る水で濡れた彼女の口にキスをして、彼女のスカートの中へ手を潜りこませた。彼女は咄嗟に足を閉じるが、意味もなく北の手は彼女の下着へ触れる。じゅく、と濡れている下着に彼女は頬を真っ赤にした。「ち、違うよ」と首を横にふる彼女が可愛くて可愛くて仕方がない北は彼女の耳に横髪をかけて、息を吹きかけた。
「俺の咥えとるとき、もぞもぞ腰動いとった」
「うそ」
「気付かんかったんか?」
「……しんちゃん」
もう、やだ、勘弁して。泣きそうな顔で北を見上げる彼女の様子に北は眉を下げて、よしよしと彼女の頭を撫でた。彼女は北になだめられながら、北は単に事実を言ってるときと、からかっているときがたまに分かりにくい。無意識のうちに言葉を攻めをしていると気付いてほしい。悪気がないのが一番質が悪いのに。北は彼女の腰に腕を回して支えると、スカートの中の手を動かし始める。びっくりした彼女は拘束する北の腕に掴んで、唇を噛んだ。北の指先が張り付いた下着を確かめるように、下着越しに輪郭をなぞる。やわい刺激に彼女がお尻をもぞもぞと動かすと、北のものにスラックス越しに触れてまた変な気分になる。
「入れてもええかな」
「あの、しんちゃ……あっ」
北は下着を避けると、中指をゆっくりと彼女の中に入れて行く。久々の異物に彼女の中は北の指をきつく締めるが、初めてのときと比べればマシな方だった。校舎の一室で行われている行為に似合わない、北は柔らかく嬉しそうな笑みを浮かべる。彼女は北の様子の変化に気付いて、振り返って唇をきゅっと結んだ。その、かわいい顔はずるい。しんちゃんはえがおが、かわいい。ずるい。どうして、そんな風に笑うの。そんな嬉しそうに。北は彼女と目を合わせて、互いの額が触れる距離まで近づいた。何気なしに彼女にキスをすると、彼女の中がびくっ、として北の指を締め付ける。ゆっくりと、やさしく、ちゅくちゅくと音を立てて、彼女は北の指を受け入れた。
「ふふ」
「しんちゃん、さっきからなに?」
「ほんまに名前としたんやなって」
「?」
「こないだかなりきつかったやん。名前のここ」
「あっ、う、んっ」
北の二本の指がぐちゃぐちゃと彼女の中をやさしく、でも確実に広げていく。彼女は腰を揺らして、北の話に耳を傾ける。健気な彼女の姿に、北は気分がもっと良くなってキスをした。
「けど、今日は最初から指が入った」
「そ、れはっ、しんちゃんの、おおきかっ」
「そんなこと言うたら、あかん。入れたなるやん」
「!」
北は彼女の髪に顔を埋めて、深く息を吸った。腕の中にいる彼女の柔らかさと、匂い、そして指先から伝わる彼女のぬくもりに興奮するような、満たされるような、そんな気持ちだった。彼女も北らしくない言葉に、北に泊って欲しいと言われたときのような、期待をしてしまう。ありえない、のに。彼女の中がとろとろ、と濡れ始めたことに気付いた北は彼女の追い打ちをかけるように、指二本を揃えるとぐちゃぐちゃと出し入れを繰り返した。入ってくるときの圧迫感も、出ていくときの喪失感も、どちらも味わいながら擦られる瞬間が気持ちがいい。その繰り返しだ。彼女は北の腕の中で、見っとも無く腰を揺らして北の指を感じてしまう。北が腰を支えてくれなかったら、立っていられないくらい足が揺れ始めていた。
「だめ、しんちゃ、んんっ」
「名前の太もも汚れてまうかも」
「も、う」
何で、そんなこと言うんだ。言われなくても、自分がどれほど濡れてしまっているか。感じてしまっているか。分かっている。彼女は自分の髪に顔を埋める北を押し退けると、恨めしそうに北を見上げた。北はきょとん、としてから、ふにゃふにゃと顔を崩した。きっと彼女の真意は北には伝わっていない。
「あかん。ほんま名前のここに入れたなってきた」
「そん、なっ、あっ、や、だ……そこっ」
「覚えとるよ、ちゃんと」
「あっあっ、やんっ」
名前の感じるとこ覚えとるよ。彼女の甘く高い声が次第に大きくなっていく。北は濡れた唇を塞いで、彼女の舌を絡みとる。いつもよりも、単調な動きでも気持ちがいい。ちゅくちゅくと、舌をすり合わせて、彼女の一番感じるところ指の腹でぐりぐりと擦る。彼女はびくんっ、と身体を揺らして、北の指をきつくきつく締め付けた。北は自分の腕の中で荒く熱い息を吐いて、ぐにゃんと倒れそうになる彼女を抱きとめた。
「はあ、……んっ」
「名前だいじょうぶ?」
彼女は北の問いかけに、小さく頷いた。北は彼女の背中をぽんぽんとあやしながら、自分の手を見つめる。彼女がどれだけ感じたか分かるほど、そこにはねっとりと液が絡みついていた。
(また手洗い場に行かなあかんなぁ)
(信介くんの本心が本当に読めない)
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