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衝撃の告白から一か月経とうとしていた。名字は中間テストを乗り越えて、二つの意味で軽い足取り待ち合わせ場所へ向かっていた。宮からのlineも、電話も緊張することはなくなっていった。未だに好意を言葉にされたり、「名前は?なあなあ名前は?」と宮に耳元でおねだりされることは苦手だった。羞恥心と緊張はいつまで経ってもまとわりつく。それでも、日に日に宮への気持ちが積み重なっていくのも事実だった。
テストが終わった解放感と、久々に宮と帰ることが出来る嬉しい彼女は気付いたら小走りになっていた。宮と帰るのはこれで、三回目だ。
珍しく待ち合わせ場所に彼女よりも、宮が先に着いてしまったらしい。宮は前髪を軽く直して、ネクタイを結び直した。何となく彼女は真面目な感じの方が警戒しない気がする。中間テストが終わった癖に、学校の体育館が使えないことに宮は不満しかなかった。でも、彼女と帰ることできるのは嬉しいので、いつもより駄々をこねることはなかった。尾白は「侑も大人になったんやな」なんて言っていたほどだ。
小さな足音が聞こえて顔を上げると、頬を赤くして彼女がこちらへ小走りで向かって来ていた。宮と目が合うと、嬉しそうに笑みを浮かべて手を振って来た。クラスが一緒と言っても、テスト期間中はまとも話すことがなかった。彼女はテストを受けたら、次の日のテストのために足早に帰ってしまうのだ。
数日ぶりの彼女に宮はでれでれと笑みを浮かべて、大きく手を振り返した。彼女は少し恥ずかしそうに小走りで宮の前でやってきた。その間、そんなに短くもないスカートが危なげに揺れていたことを宮は見逃さなかった。息を切らして頬が赤い彼女はいきなり顔を怖くした宮の様子に首を傾げる。
「名前」
「は、はい」
「スカートであんま走ったらあかんよ」
「え?スパッツ履いてるから、大丈夫だよ」
「……そういう問題やない。とにかくあかん」
「侑くんがそう言うなら、分かった」
大人しく頷いた彼女に宮はいい子いい子と頭を撫でた。久々のスキンシップに彼女は頬を別の意味で赤くして、宮の手を受け入れた。宮はなるべく穏やかな顔をしていたが、内心は「名前はスカートの下にスパッツ履くタイプなんや……へえ」と彼女の新たな情報ゲットに言いようのない気持ちになっていたことは内緒だ。
「行こか」
「うん」
三回目にして、彼女は宮に手を取られなくても、自分から宮の手を取ることが出来ていた。そんな些細な変化でも、宮が愛おしそうに見つめるものだから、彼女の手は逃げそうになる。決まったように、その小さな手を宮が優しく握る。
「逃がさへん」
「……捕まっちゃったな」
「ずっと捕まっとって」
「体育館ついたら、無理だよ」
「そういう意味やないわ」
彼女は耳を熱くしながら、宮の甘い言葉から逃げようと軽口を叩けるようになっていた。でも、身体は正直だ。宮の、大きな手をぎゅうと握り返して、本当の気持ちを伝える。
「いつか名前の口から聞きたい」
「……」
「待っとるから」
まだ少し肌寒いだけの季節のはずなのに、目が熱くてなって涙が出そうになる。彼女は宮の腕に甘えるように頭を預けて、大きく頷いた。始まりは確かにあんな形だった。それでも、二人の関係はゆっくり少しずつ、恋人の形になっていった。宮は彼女をリードしながらも、決して彼女のペースを崩そうとはしなかった。彼女が他人の目を気にせずに、宮とちゃんと落ち着いて向き合えたのは宮の気遣いのおかげだった。二人きりのときだけ、電話のときだけ、名前を呼ばれる意味も、学校であまり絡んでこない意味も分かった。分かったときに、胸が苦しくなって熱かった。
あの日、侑くんが告白してくれなかったら、私全然侑くんのこと知らないままだった。もう知ってしまったから、戻れない。侑くんが言ってくれる言葉も、優しく触れてくれることも、当たり前じゃない。私も勇気を出さなきゃいけないのに。いつも侑くんに甘えてる。何度か口を開くのに、声が出ない。
彼女は覚悟を決めて、息を吸って吐いた。そして、口を開く。悲しいくらいに小さくて、掠れていた。
「侑くん」
「うん?」
「告白してくれて、ありがとう」
「……俺のこと真剣に考えてくれて、ありがと」
宮は彼女の想いを汲み取るのが上手かった。宮の優しさに結局、彼女は我慢出来なかった。泣き始めてしまった彼女の背中を撫でてて、宮はゆっくりと小さい歩幅で歩いた。今、彼女のことを抱き締めてしまったら、もう離せない気がした。
今まで一番口数が少ない帰り道だった。でも、宮も彼女もとっても満たされた気持ちで胸がいっぱいった。彼女の濡れた目元を宮の指先が優しくなぞる。そのとき、彼女の薄く色付いた唇に触れたくなったが、寸での所でその欲求に耐えた。
「気を付けて」
「侑くんも」
「うん、名前」
「え」
宮は彼女の前髪を避けて、綺麗な曲線を描く額へキスをした。触れたのは一瞬だけ。すぐに忘れてしまうような感触と熱に、彼女の心臓は早くなって締め付けられる。また泣きそうになる彼女に宮は眉を下げて、彼女の頬を引っ張った。
「泣いたらあかんよ、目玉が溶けてまう」
「とけないよ」
「とけるよ。
泣き過ぎたら、とけるって昔オカンに聞いたもん」
そんなじゃれ合いでさえ、幸せだった。離れがたい気持ちでいっぱいだったが、宮と彼女は宮のスマホが鳴る前に別れた。お互いに背を向けても、振り向かなかった。きっと振り返って、寂しそうな小さな背中を見てしまったら、意地でも連れて行きたくなってしまう。
「ほんまに惚れたもん負けやなぁ」
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