幼馴染といっしょ
「おー、研磨。珍しいな、どっか行くのか?」
店舗特典が目的で、本当は嫌だったし面倒だったけど、仕方なくお店でゲームを買うことにした。普段は専らネットである。涼しくなった夕方を見計らって外に出ると、丁度クロと出くわしたようで声を掛けられた。振り向くと、見慣れない女の子が居てびっくりした。
その子がいわゆる彼女という存在だと理解するのに、そう時間はかからなかった。きっと今まですれ違ってただけで、何回もクロの家に来たことがあるんだろう。
「……」
「あ、こっち。俺の彼女の名前。で、あっちが幼馴染の研磨な」
「名字名前です」
そう名乗った彼女も、人見知りっぽいようで、必要以上に何も言わずに、そのまま頭を下げた。俺も焦って頭を下げて、その場を去ろうとしたけど、クロに腕を掴まれて、逃げれなくなってしまった。
「ちょ、クロ」
「はいはい、研磨くん。ちゃんと自己紹介しようね」
「……孤爪研磨です」
「お前ら愛想ねぇな」
彼女に倣って、同じような挨拶を返すと、クロは俺と彼女を呆れたように見下ろして、そう言った。いきなりこんなイベントあるなんて、思わないし、巻き込まないで欲しいんだけど。
「…だって初対面だし」
「…そうそう」
ぽつりと呟かれた言葉に、思わず共感して、相槌を打ってしまった。俺と彼女は驚いた表情もシンクロして、同じタイミングで視線を合わせた。
「…研磨くんも人見知り?」
「…うん、…あ、はい」
「あ、タメでいいよ」
「中三?」
「いや、黒尾くんと同い年。でも、あんまり気にしないから」
ぽつり、ぽつり、とやり取りを繰り返すうちに、自然と張っていた気が解れて、俺は彼女にびくびくしなくなった。
「なんだ、お前ら似た者同士か」
名字名前ちゃん。クロの彼女で、同い年で、女子高に通う女の子だ。
性格は見た目から想像出来ないくらいに、ズボラ。良い風に言えば、マイペース。クロみたいに何かに一直線って感じではなくて、何事も程々でいいじゃないって感じで全体的にゆるい人。最初は真面目でも、段々慣れてくると、上手く手を抜くタイプだと思う。
部活には入っているらしいけど、アルバイトもしているそうだ。部活よりアルバイトの方が優先的にらしい。
結構儲けているのか、誕生日に中々高めのお店のアップルパイをもらった。美味しかった。基本的にすっごいズボラだけど、時々すっごいプレゼントを仕掛けてくる。その代わりに、ゲームの攻略の仕方を教えてと言われる。彼女は何かをタダでしてもらうのが、あまり得意ではでないみたいので、自分が何かをして欲しいときには、先に何かを用意する傾向があるようだ。
「クロ」
「うーん?」
クロのお母さんの小旅行のお土産を渡しに来たついでに、俺の部屋にある本を読むクロの背中に声をかける。
「名前ちゃんと会う予定ある?」
「…」
「…クロ?」
「…いや、最後に名前と会ったのいつだったかなって」
このカップル中々似た者同士だと、俺は思う。バレーのことになると、敏感で真面目なクロだけど、恋愛は別、二の次って感じ。
「んー…まあ、聞いとくわ」
クロはまた本に視線を落とした。ああ、きっとこれは一週間後に聞いても、忘れてたって言うパターンだろうな。
***
「研磨くんっ」
コンビニでアップルパイを選んでいると、急に名前を呼ばれてびっくりした。おそるおそる振り向くと、名前ちゃんがにこっと笑って手を振っていた。髪をまとめて、制服のようなものを着ているから、アルバイト帰りか何かなのかな。
「…名前ちゃん」
「部活帰り?私はバイト帰り」
「うん」
予想当たった。彼女はぽんと手のひらを打って、そうだと持っていた紙袋中を広げて、見せてくれる。彼女に促されるように、袋を覗いて見ると、パンが何個も袋の中に入っていた。
「今日バイトでもらったから、居る?アップルパイもあるよ」
「…いいの?」
「いいよ!カフェオレ飲める?」
「飲める?けど…、どうして?」
「一緒にパン食べながら…」
「ゲームの攻略?」
「研磨先生お願いします!」
「…教えるけど、先生はやめて」
「ありがとう!」
近所の公園で彼女に手元を覗き込まれながら、ゲームをやることにも慣れてしまった。彼女は意外にもアクションゲームが好きらしい。なかなかクリアできずに、俺の倍かかってクリアしている。コツを教えても、手が思った通りに動かないらしい。それでも、クリアしたときの達成感がクセになっているとか。
「分かった?」
「うん、たぶん」
「名前ちゃんいつも多分って言うね」
「うん、だって自信ない」
俺は名前ちゃんに貰ったアップルパイとカフェオレを頂きながら、名前ちゃんのプレイを見守った。名前ちゃんのところのパン屋は美味しい。
「あー……」
「おしいね。あと三回やったらクリアできると思うよ」
「本当に?」
「名前ちゃんが喰らうダメージの量減ってる」
「ありがとう」
「でも、ここの敵のときに……」
二人でゲームに夢中になっていると、ふいに大きな影がさした。俺が顔を上げると、にんまりと嬉しそうな笑みを浮かべたクロがいた。帰ろう。もう帰ろう。彼女もそろりと顔を上げて、目を丸くした後にクロに笑いかけた。
「黒尾くんだ」
「黒尾くんだよ、名前ちゃん。二人で何してんの」
「名前ちゃんにゲーム教えてたの」
「そうなの?」
「うん」
名前ちゃんの頭を撫で回して、クロは俺たちを立たせた。家に帰ってしなさい、という意味らしい。
「俺はパス」
「?」
「じゃあね」
「あれ、研磨くん」
絶対イヤだ。恋人の二人と一緒に同じ部屋に居るなんて。クロは俺の返事に何を勘違いしたのか、首に手をおいて目を逸らしていた。あ、そう言えば名前ちゃんに全然触ってないって珍しく愚痴を言っていた気がする。やっぱり、ここは退散して正解だ。
「あれ、研磨くん行っちゃったよ」
「気を使って貰ったんですね、たぶん」
「気?なんで?」
「なんで、って……そりゃあ、俺たち恋人ですから」
「えー今更な気もする……」
呑気な名前ちゃんの言葉に、軽く服と服が擦れ合う音がした。そして、小さく高い声がして、クロの楽しそうな笑い声が聞こえてきた。俺は絶対振り返れなかった。
「名前ちゃんに無理させるの良くないと思う」
「!?……何で知ってんの」
「昨日窓から見えた」
「エッ」
「変な勘違いしないで。名前ちゃんおんぶして送ってったでしょ」
「お、おう……」
「変態」
「こら、研磨」
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