年齢不特定幼女の悩み


*デート(?)*

「ちーひろーさーん。あーそーぼー」
「…かえれ」
「お昼一緒に食べよう?」

上目遣い、傾げられる首。
隣人の女子高生にお昼を誘われる。

…文字面だけで見ると、かなり犯罪臭のようなものがするな。
しかも、見た目年齢不特定幼女だし。

「…何を食べに行くんだ」
「オムライス!」
「…」
「それか、定食?」

コイツも女だな、と女子力とか写メをとる姿とかを頭を思い浮かべていたら、
次に出てきた単語が予想よりおっさんくさくて、目がさえた。

「…」
「…あ、ラーメンでもいいよ」
「…分かった。待ってろ」

俺が厭味ったらしくため息をついても、彼女は気にしないようで
はーいと返事をして敬礼していた。

寝起きのまま出たので、乱れている髪を撫でつけながら
服装どうするかと考える。

服装を決めるというのはどうしてこうも面倒なのか。

***

「で、唐突になんだよ」
「え?友達誘うのに理由いる?
ちひろさんと話したくなったからだけだよ」

きょとん、として俺を見上げる彼女は特別他意はないようで、
恥ずかしさを感じさせない言い方をした。
恥ずかしい奴だな、と言おうと思ったが、
純粋無垢な(見た目だけとしても)目を見ると口ごもってしまう。

…だめだ。
俺はこの小さな生き物にほだされている。

「あ、でも!理由あるよ!」
「…」

彼女は三歩くらい歩くと、くるりと一回転をして
今日着ているワンピースの裾を両手で摘まんで見せた。

「新しい服買ったんだ!
だから、誰か見せたくて!」

無邪気に笑う彼女に、少し眩暈がした。
…娘を持ったらこんな感じかもしれない。
顔を右手で隠して、緩みそうになる口角を隠した。

「え…どうしたの?気分悪い?
今日ちょっと寒いから」
「いや、大丈夫だ」
「本当にだいじょうぶ?」

彼女は俺に近寄ると、眉を寄せて心配そうに俺を見上げる。
自分が身体が弱い分他人の体調にも敏感なのだろうか。

「本当に大丈夫。ちょっと欠伸が出そうになっただけ」
「そっか。急に口おさえるから、びっくりした。
ちゃんと寝なきゃダメだよ」

困った顔で注意する彼女がなんだか
背伸びをしている小さな子どものようで、思わず微笑ましいと思ってしまった。
だから、この行動に他意はなかった。

「わ、わるい」
「え?いいよ。私よく頭なでなでされるし、きらいじゃないから」

柔らかく彼女はやはり実年齢と見た目によるアンバラスで
なんだか、不思議な気持ちにさせられる。

***

「いやぁ、美味しかったねえ」
「ああ、意外に穴場だったな」
「ねー」

マンションからいつもより少しだけ歩いて、俺の学校のそばまで来た。
丁度中間にある小さなラーメン屋…いや、ラーメン屋というより
見た目はちょっとした美容院のような明るい外観で、女性客が多そうな印象だった。
しかし、大学のそばの所為か結構男女比率はそう変わらなかった。
美味しいし、値段もそんなに高いわけではないので、
学食に飽きたらあそこに行くのもいいかもしれない。

「ちひろさん、ちょっと散歩して帰ろうよ」
「大丈夫か?」
「え?」

不思議そうに首を傾げる彼女は幾分か顔色が悪そうに見える。
なんだか、いつもより色が白いような…。

「ん…ちょっと寒いかな。貧血起こさないといいんだけど」

彼女は手をこすり合わせて、上着着てこればよかったとため息をついた。
彼女が今日着ているワンピース中々素材が厚そうに見えるが、
それでも今日の気温だと寒いのかもしれない。

俺は自分が着ているパーカーを脱ぐと、彼女の肩にかける。
なんだろう、この行動を傍目から見ると
キザな奴だとか思っていたかもしれない。
しかし、小さな体を余計に小さくする彼女が見て居られなかったし、
彼女ならいいかと思ったのだ。
小さい子どもに飴をあげるような、そんな感覚で
恥ずかしくもなんともなかった。

「わ、…ちひろさん寒くないの?そんなに身体薄いのに」
「お前も似たようなもんだろ」
「…」
「なんだよ」
「遠慮してあげようと思ったけど、堂々と借りてやる!」

彼女はむっとした顔をして、俺のパーカーに腕を通した。

…。

「ええ、そこまでする?」
「何か前開いてると、寒そうだろ」

俺は彼女に合わせて腰を曲げて、パーカーのジッパーを閉めてやる。
珍しく俺が彼女を見上げる形になった。

そのとき、声がした。

「ね、見て見て」
「ん?わあ、かわいいねぇ」
「兄妹かな?妹さん思いの良いお兄ちゃんだねぇ」
「でも、似てなくない?」
「んー、あれじゃない?親の連れ子同士みたいな」
「ああ、今別にそんな珍しくないもんね」

俺たちの後ろを通り過ぎる女子大生たちは小声(思い切り聞こえている)が会話をして、
微笑ましいような生暖かい視線を寄越していった。

少し不快に思っていると、ひゅうと変な呼吸するような音が聞こえて、
目線を上げる。

俺は自分の目を疑うことになった。
彼女は今にも泣きそうな顔で、唇を噤んでいたからだ。

「どうした」
「…」
「調子でも悪いのか?寒い?」
「…」
「名前…?」

何度か問いかけると、彼女は小さく首を横に振った。
涙を耐えるように、目を閉じないようにしている。
潤んでいる瞳を見ていると、なんとかしてやりたくなっている。

「どうしたんだよ、名前…」

朝したように頭を撫でると、彼女は余計に傷ついた顔をして、
ぽろぽろと泣き出してしまった。

「え…」
「…」

少なからず体調不良以外で泣いていることは分かったが、
原因不明で泣かれるとどうしようもない。
柄にもなく焦ってしまう。
いっそのこと、体調不良が原因の方が楽だと思ってしまうくらいに。

そんな俺の焦りも知らない彼女は俺の首に腕を回して、
抱き着いてきた。

こんなに密着されるのは初めてだ。
予想外にも俺の心臓はどきり、とする。
彼女の髪から香るシャンプーが思ったより甘ったるくなかったからだろうか。
よく分からない。

でも、彼女の泣いている状態をとめてやりたいと思うのは本当だ。
俺は彼女に応えるように、頭と背中に腕を回して抱き込んだ。

ここが人が目につく道だということも、
頭から抜け落ちてしまうくらいに、俺はこのとき彼女の涙に動揺していたのだ。

***

私は自分の見た目を知っている。
それは可愛いとか美人だとかそういう他人の好みによる評価ではなく、
世間一般的に自分の見た目でどのカテゴリーに分類されるとか
ということである。

「小学生か中学生?幼女?」
「やめて」

本当に嫌な顔をする私に綾は焦ったように謝ってくる。



私はたいがと居るときに、かわいい兄妹ねと言われることに
抵抗はないし、うれしいとも思う。
しかし、私自身、単体を子どもとして扱うのをやめてほしい。

「何の話してるの?」

比較的仲の良いグループの女の子たちが盛り上がっていたので、
綾と一緒にお菓子を食べる?なんて言いながら、話に混ざろうとした。

盛り上がっていた彼女たちは一瞬でアイコンタクトをして、
私が大嫌いな微笑ましいもの見るような目で私を見て、笑顔を作る。
お父さんとお母さんが子どもに内緒話を誤魔化すためにするような笑顔だった。

「うっふふ〜名前ちゃんにはちょっと早いかなぁ」
「うんうん」
「でも、いつか名前ちゃんも経験すると思うと何だか複雑だねえ」
「わかる〜なんか綺麗なままで居てほしいよね」

隣で綾が焦っているのが分かった。
私は曖昧な笑みを浮かべて、不思議そうに首を傾げるフリをした。




私だって女の子だ。
生理だって来ているのに。
同年代の子たちが興味を持つようなことに私だって同じように興味をもつのに、
彼女たちは私を仲間に入れてくれない。

私の見た目が幼い所為か。私の言動が、性格が、雰囲気が子供っぽい所為だからだろうか。
それなりに要因があるんだろうけど、
私は日本の学校に通い始めて、女の子という集団で過ごすようになってから、
なんだか自分の立ち位置みたいなものが嫌だった。

私はたいがの妹であって、みんなの妹じゃない。
友達とは対等で居たい。
ちゃんと一人でできることだってあるし、恋愛の話とかもしてみたい。

私はただ単に寂しかった。
仲間はずれと一緒だ。

…私だって女の子だ。小さな何も知らない無邪気な子どもでは決してないのに…。

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