もう一人の兄と年頃の妹
「タツヤー?たいがー?…?いない?」
休日を利用して、タツヤがこっちに遊びに来ている。
おかしい。
ホテルではなく、家に泊まりに来ているはずなのに。
リビングのローテーブルに置手紙があった。
夕食買ってくる。
タツヤも一緒に行っているのだろうか?
それとも、紫原くんとでもどこかに…?
とりあえず、部屋に戻ろう。
私は中途半端な時間に起きたことを後悔して、ケータイを開いた。
何を思ったか、電話帳を開いてしまった。
「…」
大我
タツヤ
東条綾
降旗くん
黒子くん
高尾くん
桃井さつきちゃん
…私はそっとケータイを閉じた。
私は自分の部屋に広がる漫画とパソコンとゲームを見て、
そっと視線を伏せた。
「…外に出よう!」
***
「…」
手にある袋に私はため息をつく。
袋の中身は新刊の漫画である。
…いつもと変わらない!
これ、学校の帰りに行くコースを、休日に変えただけだ!
落ち込んでも仕方ない。
どこか、どこかに行こう。
私だったら、絶対に行かないところへ。
***
「…」
目の前を寂しく転がるボールを手に取って、項垂れる。
私の絶対行かないところ…バスケットコート。
行かないところと言うより、行っても意味がないのだ。
大我が居ないと意味がない。
「名前ってどうして、大我のこと…大我って呼ばないの?」
「…」
たいが、と大我。
些細なイントネーションの違いを綾は見抜いていた。
いつからかは、覚えてないけど…わざと私が舌足らずな話し方で大我って呼んでいることを。
なんだろう。
自分でも、あんまり意識したことがなかった。
ただ…大我に置いていて欲しくなかった。
どんどん世界が広がって行く大我に一人にして欲しくなかった。
少しでいいから、気にかけ欲しいと思った結果が、弱い妹という立場だったのかもしれない。
気付いたら、大我は過保護な兄へとなっていた。
確かに、バスケには負けるけど…。
基本的に優先順位は変わっていないはずだ。
けど、いつしか大切にしてくれる大我が煩わしく感じるようになった。
大我はいつだって、私の世界に入り込んでくる。
大我が居なかったら…きっと、私は今より友達が少なくて、寂しい奴だった。
‘大我'の妹だから、私には築ける人間関係がある。
なんだか、それが嫌なのだ。
私だって自分で友達くらい作れる…とはずなのに
どうせ、ないものねだりだ。
人が持っているから欲しくなるだけ。
ただ、それだけ…。
大我の腕の中にあると、とても小さく感じるボールも
私の腕の中にあると、大きい。
「…」
見よう見まねで、構えて
ゴールへとボールを放ってみる。
ボールはゴールへと着く前に、力をなくして、
てーんてーんとバウンドをして、転がる。
「…珍しいな。名前がバスケをしてるなんて」
「!?」
いきなり聞こえた声に大きく肩を震わせて、
その声の主を睨みつける。
「ごめん。そんなに驚くとは思わなかったんだよ」
「…タツヤ」
「一人?」
「いつでも私と大我が一緒にいるわけじゃない」
一人の時間を壊された私は機嫌悪そうに呟く。
「ごめんて。名前こっちに来てくれないか?」
「…」
タツヤは私に向かって右手を差し出す。
その手に、手をのせると、優しくでも力強く引っ張られ、私の身体は
タツヤの腕の中へと閉じ込められる。
「…」
「…タツヤ、私もうこんな歳じゃないよ」
背中をあやす様に、ぽんぽんしてくるタツヤの胸板を押す。
タツヤは意外そうに私を見つめて、どこか寂しそうに笑う。
「そうだね。名前ももう高校生だもんな。
昔はよくこれで泣き止んだのに」
「…泣いてないし」
「そう?タイガとケンカしたときのような顔してたけど」
ぎくり、と肩が揺れる。
私の顔を覗き込んで、ん?と首を傾げるタツヤに、
私は目を泳がせる。
「ケンカもしてない、よ…」
ただ…私が一方的に、時々感じる差に落ち込んでいるだけで…。
「本当に?」
「…ほんとだってば」
タツヤの探るような視線に、全て打ち明けたくなるけど、
タツヤには絶対に言いたくない。
タツヤの首に腕を回して、肩に埋めてしまえば、
私の顔は見えない。
「…あ、こら、誤魔化すなよ」
「お兄ちゃんに言いたくないことがある、年頃なの」
「…都合のいいときだけ妹に戻るんだから」
「私は…」
「名前?」
「何でもない。帰ろ…大我拗ねるよ、早く帰らないと。
私を迎えに来たんでしょ?」
「…そうだね。帰るか」
自然と繋がる手を見て、思う。
私は…こういうスキンシップをして、ドキドキするような相手や
してくれるような相手と出会えるのだろうか。
「名前?」
「何でもないよ、おにーちゃん」
私のお兄ちゃんは大我とタツヤ。
それ以上にいらない。
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