年越し
賑やかな食品コーナーでは家族連れやカップルが溢れかえっている。
この中で自分たちはどんな風に見られているのだろうか。
いや、そもそも俺は気付かれていないかもしれない。
「千尋さん何食べたい?」
「何食べるとか言うより、とりあえず蕎麦だろ」
「まあ、そうだけどさ。
おやつ!ガキ使見ながら食べるおやつ買おうよ!」
彼女はまだ蕎麦の材料しか入っていない買い物カゴを覗いて、いっぱい買おうと俺に笑いかける。
彼女も俺も食べる量は少ないほうだ。
結局食べれなかったら勿体無いから、量には気を付けろと釘を刺しておく。
お菓子のところへ到着すると、彼女は一足先に物色しに行ってしまった。
見た目通りの行動につい微笑ましい気持ちになってしまった自分を、戒めるように顔を引き締めた。
彼女には買い過ぎないように注意したものの、今日くらいはいいかとつい浮足立ってしまい、
俺の足は自然と御摘みの方へ向かう。
当然酒は飲んでいないが、今日くらいは炭酸で気分を味わうのもいいだろう。
どれにしようか悩んでいると、買い物カゴの重みの変化に気付いて、俺は視線を向ける。
何故か、こっそりと入れようとしている彼女を見つけた。
「何してんだよ」
「え、だって、なんか文句言われそうだもん」
「一々人の好みにケチつけねぇから」
「…」
俺の言葉に彼女は疑う目を向けて来たので、買い物カゴの菓子を手に取って、
戻しに行こうとすると彼女は慌てて謝って来た。
改めて菓子を確認すると、
ヨーグルト味のラムネ、棒付きのチョコ、プリッツ…そして、ラムネ。…ラムネ?
「名前、どこの屋台から盗んできたんだ」
「人聞きの悪い事言わないでよ!普通に飲み物のとこで売ってんだよ!」
「…マジで?」
「マジで!」
***
レジの会計係はだいたい彼女の方が多かった。
俺は気付かれるまでの時間が面倒だし、店員との接触もなるべく避けたい。
彼女も、あまり人との接触は得意じゃない方らしいが、何度か俺が気付かれないところに出くわして、
不憫に思ったのか自然とこういう形になったのだ。
俺は買ったお惣菜を思い出しながら、カラカラとビーニル袋を手に取っていた。
エコバックに入れるとき、一々ビーニル袋に入れるのは面倒だと一度愚痴ったことがあるが、
彼女にすごい勢いで怒られた。
零れたら大変だの、匂いが目立つだの、なんか色々と言っていた。
あんまり覚えていない。
ビーニル袋が最近嫌いだ。指先が乾燥しているのか、上手く開けられない。
本当にイライラする。
そんな俺のような奴のために、濡れタオル?みたいなものが用意されているが使いたくない。
何となく、衛生的に嫌だ。
「千尋さん」
会計中の彼女が財布を弄りながら俺を呼ぶ。
買い物カゴを運べと言う合図だ。
俺は格闘していたビーニル袋をとりあえず買い物カゴの中へ突っ込んで、そのまま台の上へ運ぶ。
「エコバックは」
「ポケットの中」
彼女は会計を終えて、財布をリュックの中へしまって、リュックを背負い直す。
そして、彼女は俺のコートのポケットに遠慮なく手を突っ込んで、エコバックを取り出した。
エコバックを広げて、重たいものから入れていく。
ビーニル袋を開けるのに戸惑っている俺をケラケラ笑いながら、
彼女はすんなりとビーニル袋を開けて、総菜をエコバックへ入れていく。
「…年齢の差か」
「いやいや、私ちゃんとハンドクリームしてるもん」
やっと開いたビーニル袋を俺から受け取って、彼女は最後の総菜をビーニル袋で包み、入れて、
エコバックが珍しくぱんぱんになった。
「ほらしっとりしてるでしょ」
「…まあ、悪くない」
「家帰ったら塗ってあげるよ」
「ぬめぬめするのは嫌いだ」
右手にエコバック、左手には小さな手。…しっとりと触り心地がいい小さな手。
***
「千尋さーん、お風呂出たよ」
「おー…髪乾かせよ。そのまま寝んなよ。
びしょびしょに濡らしたら、怒るからな」
お惣菜をお皿に盛りつけていた千尋さんはエプロンの紐を解いて、私を軽く睨んだ。
私は形だけではないが、うんうんと頷きながら、ドライヤーのコンセントを探す。
以前泊まりに来たとき、風呂上りで睡魔に我慢が出来ずに、髪が濡れたまま千尋さんの枕で眠ってしまったのだ。
…それはもう怒られた。でも、ちょっと根に持ちすぎじゃない?とも思う。
「じゃあ、蕎麦任せた」
「はぁい。ゆっくりお風呂入って来てね」
「ん」
お風呂へと向かう千尋さんの後姿を見送って、私はドライヤーのスイッチを押した。
***
だいたい乾いた髪を適当にまとめて、私は年越しそばの仕上げにかかっていた。
ネギを添えて、出来上がりと!
「へえ、ちゃんとできてる」
「うわっ…もう、急に出てこないで。びっくりした」
「てか、名前ちゃんとエプロンしろよ。汚れるぞ」
ローテーブルへと料理を並べていたら、ぐいっと千尋さんに腕を引かれて、
後ろから抱きしめられるような形でパジャマを汚していないか確認された。
そのまま自然に、座っている千尋さんの膝の上に着地してしまった。
「千尋さんこそ…髪ちゃんと拭いてある」
「お前と一緒にするな」
揚げ足を取り損ねて、拗ねる私を、千尋さんは腹立たしい顔をで見下ろして鼻で笑った。
てか、根に持ちすぎ。
確かに私が悪いけど。
少しイラッとしたので、千尋さんの手の甲を軽く抓った。
私のささやかな反撃に、察しの良い千尋さんはすぐに私が機嫌を軽く損ねていることに気付く。
「…あー…、しつこ過ぎた。悪い」
「…うん」
まとめてある髪を千尋さんが解いて、梳くように撫でる。
その優しい手つきと、バツの悪そうな顔に免じて私は千尋さんを許すことにした。
手を合わせて、機嫌を直したことを示せば、千尋さんも手を合わせた。
「じゃあ、食うか」
「うん」
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