黒子と再会


〜 黒子と再会 〜

「火神君、どうしたんですか。何かすごくそわそわしていませんか?」
「うおおおっ!」

急に現れた声と姿に肩を揺らす。
視線を下に向ければ、不思議そうな目と目があった。

「驚かすんじゃねぇー。」
「驚かしてません。火神君が勝手に驚いてるだけです。」
「んだとっ!?」
「そんなことはどうでもいいんです。何か心配ごとですか?」
「どうでも・・・っ!
・・、別になんでもねぇよ。」
「そうは見えません。いつもはそんなに時計を気にしないじゃないですか。」

うっと言葉に詰まる。
いつもより練習に身が入っていないのは確かだと、自分でも分かっている。

「妹が風邪で・・・熱だしたんだ。」
「いもうと・・、火神君の妹・・、・・・・とても大きそうです。風邪引きそうには思いませんね。」
「風邪引かないって馬鹿って言いたいのか?ああ?
それに超小せぇよ。アイツ。お前より小さい。」

たいがぁー!と妙に母音をが付くような呼び方をする妹を思い浮かべて、こんくらいだと自分の腹あたりを手で示してみる。

「・・・年けっこう離れてるんですか?」
「いや、同い年。」
「・・・・・腹違いのいもうと・・?」

気遣うように言う黒子の頭をはたく。

「火神君、痛いです。」
「お前がアホなこと言うからだ。
ちゃんと同じ母親から生まれて来たわ。二卵生の双子なんだよ。」
「二卵生ですか?」
「一応双子だけど、二卵生の双子ってのは、普通の兄妹と一緒で全然似てねぇんだと。」
「へぇーそんなこともあるんですね。
是非、会ってみたいです。」
「是非つーか、会えるだろ。同じ学校だし。クラス違うけど。」
「それは楽しみです。」
「そうか?」
「はい、火神君の妹さんも変な眉毛なのか気になります。」
「お、お前マジで喧嘩売ってんのか?!」

ガシツ!と黒子の頭を掴んで、ギリギリと力を込める。

「いえ、単なる好奇心です。ですから、この手を離して下さい。痛いです。」

普段は寄せない眉間に、皺を寄せながらバシバシ!と離せ離せと、掴んでいる腕を叩くので、腕を離す。

「・・・黒子、お前さー」
「なんですか。お金なら貸しませんよ。」
「ちげぇよ!」
「じゃあ、何ですか?」
「良かったら・・、いや、マジで、お前が良かったら、っていう話なんだけどよー」
「さっさと言って下さい。気になります。」
「・・お前言い方が一々にイラっとくんだよ!」
「で、用件はなんですか?」
「・・・ッチ、妹がお前と話してみたいって。」
「えっ。」
「黒子の話したら、話してみてぇみたいなコト言ってたから、・・・ん、まあ、そんだけだ。」
「そんだけだって、何か中途半端で・・・イマイチ話が掴めません。」
「・・・妹のコトよろしく頼む、みたいな、なんだ、」
「火神君妹思いなんですね。」
「・・・うるせっ!」



借りていた本を返そうと、図書室に向っていると
よろよろと危なげな女の子が目に入った。

壁に手を付きながら歩く女の子は、小さい背中に赤く長い髪。

(どこかで…見たことある気が・・・。)

何かが頭の中で引っ掛かって思い出せそうな気がして、思いを巡らせたとき視界の中の彼女の身体が完全に傾いた。
急いで彼女に近寄って、前へ傾こうとする身体を腕を引っ張って、抱きとめる。

(軽い・・・!)

掴んだ腕は制服の上からでも分かるくらいに細く、ぽすんと抱きとめた身体は衝撃があまりなく、とても軽く感じた。

「大丈夫ですか?」
「・・・。」
「気を失っていますね。」

彼女の顔を覗きこむと、真っ青で、閉じられた唇も色を失っていた。

「・・・この子は。あのときの・・・子?」

記憶の中の女の子より、大きくなっている。
でも、あの子って・・・小学生ぐらいじゃなかったけ?
二年ぐらいしか経っていない。
だったら、この子は中学生ぐらいのはずだ。

けれど、腕の中に居る女の子は誠凛の制服を着ている。
ってことは、高校生・・・?

「黒子、お前こんなとこで・・・って、名前!?」
「あ、火神君。」
「顔色悪いな・・・。黒子、コイツ背負うから、背中に乗せてくれ。」
「はい、分かりました。」

後ろから現れた火神君は焦ったように、彼女のことを名前と呼び。
彼女の顔色を見ると、顔を歪めた。

「黒子コイツ倒れてたか?」
「倒れそうになったところを、僕が抱きとめました。」
「そうか。頭はぶってねぇか。サンキューな。」
「いえ。それより、この子が・・・火神君の妹さんですか?」
「あ、ああ、名前って言うんだ。
とりあえず、保健室にー」
「火神!」

火神君の妹さん・・・名前さんを運ぼうとしたら、先生の声が廊下に響く。

「げ!・・・何スか。」
「・・・火神また倒れてたのか。大丈夫か?」
「え、また何スか。」
「ああ。この前も授業が終わった途端、立ったときに倒れてた・・・って。火神、俺が用があるのは、兄の方のお前だ。
・・・妹の方をとりあえず、連れてー」
「僕が連れ行きましょうか?」
「わあっ!?・・・黒子!?お前、いつのまに。」
「最初から居ました。先生は火神君に用事があるんでしょう?
火神君の妹さん、名前さんは僕が保健室へ連れて行きます。」
「おお、それは助かる。」
「え、ちょっと、待て・・・ださい。」
「俺だって、暇じゃないんだぞ。妹が心配なのは分かるが、お前は自分の成績も心配しろよ。」
「うっ。」
「小テスト最悪だったろ。その課題プリントを渡さないといけないから、お前は俺と職員室に行くぞ。」
「・・・ウス。」
「じゃあ、黒子頼んだぞ。」
「はい。」

心配そうな顔で何回も振り返る火神君を見ながら、名前さんを背負って保健室へ向った。



「失礼します。」

コンコンと二回ノックをして、ドアを開けると保健室の先生が振り返った。

「あら、また火神さん倒れたの?」
「また…よく倒れるんですか?」
「元々身体が弱いみたいでね。ベットに運んでもらえる?」
「はい。」

先生がカーテンを引いて、上布団を捲った。
僕は彼女が落ちないように気を付けながら、ベットに下ろした。

「…顔色いつも以上に悪いわねぇ。そういえば、今日体育があったからか。
火神さん、お兄さんと違って体力ないのよ。」
「そうなですか。」
「貧血ね。寝てれば大丈夫よ。…ええっと、」
「黒子です。」
「ごめんね。黒子くん、あなたは戻って良いわよ。午後の授業始まっちゃうでしょ?」
「はい。」
「運んでくれてありがとう。」
「いいえ。」

会釈をしながら、僕は保健室を後にした。
(あの子が…火神くんの妹…。)



長い赤い髪を弄りながら、下駄箱をにもたれ掛かるのは…火神君の妹名前さん。
「名前。」と火神君が名前を呼ぶと、彼女は顔を上げて、不満そうな顔をした。

「たいがー!おっそーい!!」
「仕方ねぇだろ。部活なんだから。」
「それはお疲れ様…さあっ、帰ろ!」
「マジパ寄るぞ。」
「え、やだ。」
「俺腹減ってんだよ。」
「えー…。」
「…。」
「って、あ!ちょっと、置いてかないでよ!」

スタスタと先に行く火神君の背中を、彼女はバタバタと小走りで着いて行く。
後ろから、その光景を見ると、親子のようだ…と思った。
同じ髪色だけど、背と肩幅…全体的にサイズが違いすぎる。

「…あ、名前。」
「ねえ、帰りたい!」
「おい、黒子ー。…?…いねぇ。」
「え、なになに?何が居ないの?」

彼女はキョロキョロと僕を探す火神君を不思議に思ったのか、「なに?ねえ、たいがどうしたの?」と火神君の裾を引っ張っていた。

「いや、黒子と一緒にマジバ行く約束したんだけど、…居ねえ。」
「あ、ねえ、その黒子くんって私を今日運んでくれた人?」
「あ?ああ、そうそう。ソイツ。」
「え!…じゃあ、お礼言わなきゃ!…黒子くん、何で居ないの?」
「知るか!…アイツはすぐどっか行くんだよ。ッチ。」
「舌打ちしないで下さい。ちゃんとここに居ます。」

二人の後ろでそう言うと、

「うっわ!」
「ひゃああ!」

二人同時に、肩を揺らして声を上げた。

「ってめぇ!黒子脅かすんじゃねえ!」
「驚かしてないです。火神君が勝手に驚いたんです。…名前さん、僕が黒子テツヤです。よろしくです。」
「……あ、は、はい、…火神名前です。よろしくです…?…あ、あの…?」
「はい?」

彼女はじぃっと僕を観察するように、見つめて来た。
その様子に首を傾げていると、ああ!と大きい声を出した。

「う、ウサギのぬいぐるみくれた人だっ!!」
「えっ…やっぱり、君はあの時の…子ですか?」
「は、はい!あの時助けてもらったの私です!」
「同い年だったんですね。」
「……やっぱ、幼く見えますよね。」
「あ。」

彼女が幼い外見のことを気にしているとは思っていなかった僕は、慌てて口を閉じた。

「おい。」
「なによー私ってやっぱり幼い?ねえ、幼い?」
「助けてもらったってどいうことだ?」
「えっ…い、いやぁ…。」

火神君がいつも以上に鋭い目つきで、彼女を睨んだ。
彼女は顔を引きつらせながら、ピシッと固まった。

「黒子、どいうことだ?」
「え、名前さんが不良みたいな男の子に絡まれていたので、青峰君たちが助けてあげたんですよ。中二ぐらいのときに…。」
「きゃああああ!言っちゃダメ!」

彼女を両手を伸ばして、僕の口を塞ごうとした。
僕から見ても、かなり小柄な彼女には到底届かないけれど。

「?名前あのとき、何もないって言ってなかったか?」
「えー?…あ、ほら、えっと、たいがのこと心配させたくなくってっ!」
「一人で出かけんなって言ったよな?」
「あ、あの時は調子良かったし!」
「コンビニの前で倒れたよな?俺が来なかったら、完全に倒れてたぞ?
あと、不良に絡まれたってどいうことだ?ああ?」
「ご、ごめんなさあああああい!!」

彼女の悲鳴が暗い帰り道に響いた。



〜 マジバにて(火神は注文中) 〜

「何かすみません。僕が余計なことを言ったみたいで。」
「う、ううん。だいじょうぶ。たいがに隠し事してた私が悪いんだし…。」
「でも、良いお兄さんですね。」
「…そ、そうなの!普段ぶっきらぼうで、目つき悪いし、口悪いし、アホだけど、優しくて素直なとこもあるの!」
「火神君のこと大好きなんですね。」
「ええっ!…嫌いでは、ないかな…。」

彼女は照れたように笑った。
火神君は兄妹の中が良いみたいだ。

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