兄の先輩とファーストコンタクト


「うん?なぁ、コガあの小さい子だれだよ?」
「おー日向遅かったな。火神の妹だってー!」

体育館に行くと、ステージの上でくるまっている女の子に目が行った。
彼女は若干頬が赤く、息も荒い。

「へー火神の妹か…火神にねぇ……妹っ!?」

ぐるんっと勢いよく振り向きながら、突っ込みを入れる俺にみんなはなんだよーと不満げな顔をした。

「なんで火神の妹がここに居る…つか、火神妹居たの!?」
「え、うす…居るッスけど。」
「なんでここに!?」
「ウチの妹身体弱くて、んで微熱だして、一人じゃ帰れないから、俺が終わるまで待ってるてことだ…です。」
「はぁ?それなら、お前今日は帰って良いぞ。妹もかわいそう…?」
「キャプテン?」

火神の妹と思われる、タオルケットにくるまっている女の子をもう一度よく見る。
その子は誠凛の制服を着ていた。
って、ことは、つまり…?

「火神。」
「何スか。」
「お前、双子だったのか。」
「そうだぜ…です。」
「似てねぇな。」
「二卵生だからっす。」
「ふぅーん。…いや、うん、で、妹も可哀想だろ。今日は帰って良いぞ?」
「いや、名前が帰るのはダメだって怒るんスよ。」
「え、名前?…ああ、お前の妹名前って言うのか。…え、なんで?」
「自分の所為で、部活の時間が削られるのは嫌だって言って、一人で帰ろうとしたんで、今日は仕方なく…。」

ことの事情を説明する火神は、苦い顔でそう言った。

(…強がりな妹なのか…?)

「そか。分かった。じゃあ、練習っすぞ!」
「ウス!」

(やけに、小せぇ気がする…。)



「名前ちゃん、だいじょうぶ?」
「…相田せんぱい、すみません。我まま言って。」

彼女は寝たまま、申し訳なさそうな顔をする。
その顔はまるで、注意されて反省しているときの火神くんにそっくりだ。

改めて見ると、やっぱり、二卵生とは言え似ている。
髪色はもちろん、目元が彼女の方が丸み帯びて、大きく柔らかい印象を受けるけど、目尻は吊りあがっている。

(兄妹そろって、ツリ目なのね。)

「いいわ。でも、今日だけだからね。火神くんが妹居るなんて知らなかったから、良い機会だったしね。」
「・・・ありがとうございます。」

性格はあまり似ていないみたい。
火神くんより、礼儀正しいけど、どこか居づらそうにしている。

(人見知りな子かもね。)

「熱下がるといいわね。」
「はい。」

火神くんと同じ色の、柔らかい髪を撫でた。



「名前ちゃんだいじょーぶ?」
「…。」
「水戸部が水分取った方がいいって!」
「あ、ありがとうございます。」

横になっていた彼女は、のっそりと起き上る。
頬は赤く、顔つきは、やはりだるそうだった。

彼女はすみませんと言いながら、水戸部からコップを受け取る。
そのとき、小さいと思ってしまう。

制服さえも普通より小さいサイズで、白色のカーディガンの裾から出る指先もまた細く小さい。
水戸部の手のサイズの三周りくらい、小さい。

ごくごくと飲む姿が可愛らしい。
一つ一つの動作がどうしても、普通の子より幼く見える所為かほっとけない。
妹が居ると、兄はこんな気分になるのだろうか。

水戸部は明らかに、心配そうな表情で彼女を見ている。
水戸部自身、弟や妹が居るから、余計に心配になるんだろう。

「あと、少しで部活終わるから!もう少しの辛抱な!」
「…。」

水戸部もこくこくと頷いて、彼女の頭を自然な動作で撫でる。
そして、彼女は目をぱちくり、として小さくはいと返事した。

どこか戸惑いを感じている彼女に、水戸部は優しく笑ってみせる。
彼女はその笑みを見て、ぎこちなくだけど、笑い返した。

「小金井先輩、水戸部先輩頑張ってください。」

掠れた声だけど、確かに耳に届いて、大きく頷いて見せた。


「名前、おい、名前。」

聞きなれた兄の声。
まだ起きたくない。
あと、妙に下固い、痛い。

「…起きろ!」
「…。」
「ちょ、火神、そんな乱暴すんなよ!」
「いや、いつもこうなんだ…です。」

知らない…いや、知っている、さっき知ったばかりの声がたくさんする。
脇の下に手をやられて、私は起き上らされている。

妙に眠気が強く、起きれない。
首から上が動かない。

「おい、名前。ちょ、寝るな。」
「ん〜・・・。」

たいがの胸に倒れこんで、そのまま意識が沈んで行った。



「完全に寝てやがる。…まだ着替えてねぇし。」
「俺達は自主練で、残るからまだ体育館居るし、火神は着替えて来いよ。」
「じゃあ、すみません。先上がるッス。名前のこと頼みます。」
「おう。」

火神は彼女を再び寝かすと、タオルケットを丁寧にかけた。
タオルケットをかけられると、寒いのかタオルケットの中で身体を丸める。
そんな彼女を見つめる火神の顔はいつもより、大人びていた。

「伊月どうした?」
「ああ、日向。いや、火神もやっぱり、兄貴なんだなぁと思ってさ。」
「…何か意外だわ。火神に妹居たとか。」
「まあ、確かに。」

火神が彼女を体育館に連れて来たときより、寝息も落ち着いている。

「妹かぁ…。」
「日向、妹欲しいの?」
「いや、そいう訳じゃねぇけど。火神の妹って、どんな子?」
「どんな…子って言われても、そこまで知らないって。」
「え、そうなの。」
「火神が連れて来たとき、もう寝てたし、でちょくちょく起きてたけど、俺話しかけてないから。
あ、でもコガたちが話しかけてたみたいだぞ。」
「そうか。」

そう言った日向は、コガのところへ向っていた。
俺は彼女へと目線を移した。

髪の毛が顔を覆ってしまっている。
その髪が不快に思うのか、髪の隙間から見える眉間には皺が寄っている。
俺はそれに気付き、髪をどかしてやる。

触れた髪や頬は柔らかく、仄かにシャンプーのような匂いが汗に交じって、鼻を通った。
髪に隠れていた顔が見える。
半開きの口は無防備に開いていた。

顔つきも身体も、幼い印象だった。

(…ちゃんと、女の子なんだなぁ…。)



「…。」

匂いがする。
嗅ぎ慣れた匂い。

「…た、いが。」
「ん、起きたか?」
「……少し。」
「後少しで、家だから。」
「うん。」

私はたいがの背中に背負われていたのだ。
たいがに背負われるのは好き。
大きい背中はいつでも、私を安心させてくれる。

「たいが。」
「ん?」
「たいが。」
「なんだよ。」

いつもより顔が近いから、わざと名前を呼び続けた。
たいがは律儀に、首を後ろに向けようとしてくれる。
無茶すると、痛くなっちゃうよ。

「おなかすいた。」
「おかゆな。」
「うどん。」
「材料ねぇっつの。」
「たいがならできる。」
「無理。」

いつもたいがは、こんな時間に帰るのか。
もっと遅いかもしれない。
暗い景色に、まだ少し肌寒い季節。
こんな夜の道、一人で歩きたくないなぁ。

「たいが。」
「おかゆだからな。」
「そりーそりーひげそりー。」
「別に気にすんなよ。」
「…ごめん。ありがとう。」
「いいって。」
「なんちゃって!」
「殴るぞ。」
「ヨダレ垂らすぞ。」
「やめろ!」
「あはは…ははは…」
「名前?」
「…。」

ズキン、と頭に痛みが走る。

「寝る。」
「早歩きで、行くからな。」

たいがは私を背負い直すと、大きく足を踏み出した。

寝る=もう無理、限界だ。

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